日本にある謎の慣習をぶち壊したかった。
現在公開中の『ベイビーわるきゅーれ』が口コミで評判になるなど、いま映画界の注目を集める阪元裕吾監督。日常と地続きの世界に、本格アクションでバイオレンスを描く彼が新作『黄龍の村』で選んだジャンルはホラー。若者たちが、妙な村に迷い込んで酷い目に遭うところから、物語はスタートする。
「若者たちがイカれた村に入っていって、イカれた村の慣習に戸惑うんですけど。村に限らず今の日本にも、謎の慣習があるじゃないですか。ハンコ文化とか、ズーム会議では部下が先に退室するのは失礼だとか(笑)。作中には『うちは鍋つかみ禁止やねん』『これ、村の決まりやから』みたいなセリフが出てきますが、外部から見ると“なんじゃこら”と思うようなことも、中にいるとわからなくなることがある。男性教師が下着の色をチェックするというおかしいことも、『校則やから』でまかり通っていたりしますしね。だからこそ、全く別の価値観を持った新参者が、そういうものをぶっ壊すということを、単純にやりたかった。恐怖とは違うかもしれないけれど、誰もが感じたことのある不条理の嫌な感じを描くイメージです」
ホラーの王道ともいえる始まりではありながら、突然、予想もしない展開(劇場で確かめてください!)を迎える。
「日本の映画業界に対する、“もっといろいろな角度から低予算ホラーを作ってもいいんじゃないの?”という気持ちで撮りました。ネタバレになるので詳しくは言えないですが、お金がない中、作品作りにおいて何が一番大事かというと、役者の体なんです。“この人、こんなことできてすごいでしょ”ということを撮りたいというのが映画における最初の欲求であり、尊いことでもあり。そういうところも見せたかったんです」
ウェイウェイした学生を見事に演じた水石亜飛夢さんや、阪元監督作品に欠かせない伊能昌幸さん、村長役の海道力也さんなどが演じる、個性が粒立ちすぎたキャラクターたちも魅力的。
「僕は、現場で出るアイデアが最新のものだから、あまり脚本を持ち歩かないようにしているし、俳優にも脚本を現場でめくってほしくなくて。主演の水石さんは、一回、台本を頭に叩き込んだ上で忘れられる人です。冒頭の縦画面のシーンは、ほぼアドリブで、僕はトランクに隠れて『こんなセリフどうですか』と伝えるくらいでした。大阪の俳優で自主映画を撮っている時からお世話になっている方たちも起用させてもらいました。ホラーと謳いながらも、『絶対に笑ってはいけないシリーズ』みたいですよね(笑)」
劇中に出てくる会話が、ホラーというジャンルに引っ張られず、リアルなテンションであるところも新鮮に感じられる。
「『死ぬってなんだろう…』みたいな“こんなこと普段言わへんやろ”と思うセリフが出てくる映画ってありますよね。そうじゃなく、ジャンル映画だけど普通にしゃべることはできないものかと、大学の時から考えているんです。勝手に“ちびまる子ちゃん現象”と呼んでいることがあって。たとえば、まる子が炊飯器が欲しいと言うと、友蔵や花輪クンなど登場人物が全員、炊飯器に囚われ、その話だけをしますよね。1話10分弱の『ちびまる子ちゃん』はそれでいいんですが、映画でもずっと同じテーマを話しているな、それ以外の全然関係ないことも言うでしょうがと思うことがある。だから、大事なことはあまり言わせないようにしたり、会話がみんな同じ人の会話に聞こえないように気をつけています」
再びホラー映画を作るなら、どんな内容にするかを尋ねると。
「“世紀末が始まるんや…”と感じるようなものがいいですね。宇宙人や、言葉が全く通じないやつに侵略されるのって怖いじゃないですか。電信柱に自転車が引っかかったり、完全に真っ黒だけど奥行きのある空間が生まれたりなど、説明のつかない、意味のわからないことが起こってほしい。その理由は全部、“神の怒りに触れたから”という不条理なものでいいんです。ホラーはこの国の映画界における一大ジャンルですから、いつか撮れたらいいですね」
『黄龍の村』
キャンプに行く途中で車がパンクし、助けを求めて辿り着いた龍切村に、村人の強引なすすめで泊まることになった8人の大学生。しかし翌朝、突然、1人が包丁で殺され、さらに目の前には銃を持った村人と村長が現れる。公開中。
阪元監督のトラウマホラー
『悪の法則』
麻薬ビジネスに手を出したセレブたちが危険に巻き込まれる様を描く。「メキシコギャングを怒らせたブローカーが謝るも許されないシーンには、生かされるも殺されるも相手次第という圧倒的不条理がある。自分がちっぽけだと思い知らされる状況は、怖いです」発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『ノロイ』
呪いをテーマにしたドキュメンタリー映像を制作した怪奇実話作家が失踪。新しい監督のもとで映画化されるも、携わった人が次々に亡くなっていく。「怖いし、ただただ気持ち悪いし、絶望感があってポカーンとして終わる作品です。ホラー映画で一番好きです」DVD¥1,222 発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
さかもと・ゆうご 1996年1月18日生まれ、京都府出身。『べー。』で残酷学生映画祭2016グランプリを受賞。今年、『ある用務員』『ベイビーわるきゅーれ』『最強殺し屋伝説国岡』など、4作品が劇場公開された。
※『anan』2021年10月20日号より。写真・中島慶子 取材、文・重信 綾
(by anan編集部)