日常のスケッチの中にいまどきの気分がさりげなく表現されていて、共感を誘うオカヤイヅミさん。今年でデビュー10周年を迎え、その記念碑的作品2冊を同時刊行。『いいとしを』と『白木蓮はきれいに散らない』は、ミッドライフ・クライシスを感じ始める男性と女性、それぞれから見た世界が描かれ、首肯する場面や言葉が随所に出てくる。

揺れる世界とお年頃…諸行無常を男女それぞれの目線で描いた2冊。

Book

「どちらも、死に近づいている人たちの話ですよね。男性、女性と分かれたのは、連載媒体に合わせてだったのですが、コミュニケーションのしかたや心理的・社会的な性差についての感覚…結果的にその違いも出せたかなと思います。たとえば、『いいとしを』で描いたように、男性は踏み込み方が違うのかな。雑談が苦手な人が多いですよね。そういうのは女の人の方が得意で、『白木蓮~』でもわかりますが、お互いそれほど踏み込まなくても、話すことがいっぱいありますよね」

『白木蓮~』に登場するのは、専業主婦のマリ、離婚調停中のサヨ、キャリアウーマンのサトエ。高校時代はいつもつるんでいたが、大人になったいま、境遇は三者三様だ。高校卒業後40年間会ったこともなく、親しかった記憶もないヒロミが、なぜ自分たちに遺言を遺したのか。その意味を掴みかねながら、それぞれが目の前の悩みやこれまでの来し方に思いを馳せていく。

「ヒロミは家族もいなくて孤独死してしまったけれど、背景が見えてくるにつれ、幸せってそんな単純な話ではないとわかるというか。そんなことを描きたかったんです」

一方、『いいとしを』では、息子と父という、女性にとっては興味深い関係性を眺めるのが楽しい。灰田俊夫が父と同居してからあらためて〈親についてなんて、知らないことの方が多いんじゃないか〉と独りごちたりするリアリティが見事。

「私の家族は父が2年前に他界していて、灰田家のように“聞けば/聞かれれば答える”くらいの距離感でした。生んで育てた/育てられたわけだから密な感じはするけれど、家族は親密で感情を共有するものだという空気には違和感がありますね」

また、両作品ともフェミニズムと関わるテーマにも触れられていて、その手さばきにも心を掴まれる。

「女性同士ならとっくにがしっと手を取り合うくらいの話も、男性たちには“そんなにわかり合えていなかったんだ”と思うことがあります(笑)。ただ指摘しても響かないと思うので、日常の中でだんだんわかってくれればいいなと思います」

オカヤさんのマンガを読んでいて何よりも心地いいのは、さまざまな人間の生き方や価値観を柔らかく受け止めて描いてくれるところ。

「長年積み重ねていけば、いいものも悪いものも増えていく。どうしようもなさがからんで“しょうがないな”と思いながらやっていかなくてはいけない部分もあるし、いい思い出で気持ちが楽になったりもする。自分の中に、何に対しても『どっちがいいというものでもない』というのがある気がします」

Comic

『いいとしを』 42歳のバツイチ男性が、かくしゃくとしたマイペースな父と同居し始めて気づくさまざまな変化を描いた。KADOKAWA 1320円 ©オカヤイヅミ/KADOKAWA

『白木蓮はきれいに散らない』 孤独死した元同級生ヒロミの謎の遺言によって、集まることになった3人の女性たちが、自らが向き合っている現実を見つめ直す。小学館 1320円

オカヤイヅミ 1978 年、東京都生まれ。マンガ家、イラストレーター。2011年に『いろちがい』でデビュー。『ものするひと』『すきまめし』など著書多数。

※『anan』2021年6月9日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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