滑稽でも「好き」が止まらない。暴走する不器用な恋のゆくえ。
「以前、ぬいぐるみを手放そうとお寺に持っていったとき、自分が悪霊になったらどんな気持ちがするのかなと思いました。悪霊になるだけの理由があるなら、それは愛とか後悔とか切実なもののためじゃないかという気もするし、悪霊と恋は一緒のもののように思えたんです」
主人公のブンちゃんは、同級生だった三舟さんにずっと片想いをしている。ブンちゃんのことを好きなシモジは、3人で遊びに行ったプールで事故死。ブンちゃんが持ち歩くクマのパスケースに乗り移っている。
「ブンちゃんの世界には、大切なものがひとつだけしかなく、それをなくしたらおしまいなのだと思います。そんなブンちゃんの想いに気づかない三舟さんは、太陽とか土とか、栄養がふんだんにあるような人で、自分が好きなものを隠さない。シモジには少し意地悪な役をやってもらっていて、思春期に死んでしまったので黒歴史状態のまま意見を発しています。大人になったら蓋をするような部分を請け負ってくれている、私にとって頼もしい悪霊です」
不器用なブンちゃんは報われない恋にけりをつけるべく、グリーンランドに出かけたり、剃髪して修行僧になろうとする。ちょっとずれた情熱の傾け方が笑えるものの、平常心ではいられなくなる恋愛の本質を突いているようで、その真っすぐさが切なくもあり……。それぞれが好きな人にしか気持ちが向かず、自分のことを想ってくれる人を傷つけてしまう、恋愛の残酷さも鋭く描く。
「ほかの人から見たらどんなに滑稽でも、本人はそれどころではなくなる瞬間が誰にでもあると思うし、その瞬間がずっと続いている人たちの話だと思います。変わっていく三舟さんを、ブンちゃんはそれでも好きでいられるのか。『自分なんて死んでよかった』というシモジの気持ちがこの先変わるようなことが起こるのか。あとは、恋が愛情に変わったら、それまで抱えてきた修羅な想いはすべてきれいに終わらせられるのかという疑問が自分の中であって。その疑問の答えを、今後描きながら見つけていきたいと思います」
宮崎夏次系『あなたはブンちゃんの恋』2 三舟さんの片想いの相手にシモジが乗り移り、三者三様の「好き」がますます暴走。第3巻は夏の終わりに発売予定。『月刊モーニング・ツー』で連載中。講談社 715円
みやざき・なつじけい 著書に『僕は問題ありません』『培養肉くん』など。大前粟生さんとの共作絵本『ハルには はねがはえてるから』が6月9日発売予定。
※『anan』2021年5月26日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)