軽妙な会話の中で繰り出される、色気を孕んだひとことが刺激的。
「文章表現から色気を読み取るのは、受け手側の想像力やインテリジェンスが試されます。ただし映画の場合は、そこに視覚的訴求力が加わるので、色気という曖昧な概念がより具体性を帯びるのではないでしょうか」
数多くの映画で、色っぽいセリフをたくさん聞いてきた、映画ライターの山縣みどりさん。映画のセリフで味わう色気の醍醐味は、ウィットに富んだ言葉の応酬だといいます。
「洋画の場合、機転の利いた切り返しができるかどうかでその後の二人の運命が大きく変わってきます。軽妙なやりとりの中、色気を感じさせるセリフを繰り出すことで、一気に場の雰囲気を変えることができる。特に映画は、セリフを口にする人の表情や声色も加わるので、場面に漂うセンシュアルな電磁波のようなものが、観ている人にストレートに伝わってくるのが楽しい。映画を観ながら、いざというときに使えそうなセリフを、心の奥にストックしている人もいるのでは(笑)」
エロティックな唇をしてるって誰かに言われたことはある?
『マッチポイント』 アマゾンプライムビデオ、YouTube ムービー、Google Playなどで配信中。©Everett Collection/アフロ
プロを断念し、テニス・インストラクターになったクリスの成り上がり人生と、浮気の始末の仕方を描く人間ドラマ。「生徒である上流階級のトムの妹と婚約したクリスが、後に不倫関係になるトムの恋人・ノラに言ったひとこと。ラケットの使い方を教えるため、クリスはノラに体を密着させ、このセリフを言います。初対面の女性を褒めるのに、“きれい”とか“美人”ではなく、あえて官能的な部分を褒めることで、相手の想像をうまく掻き立てていて、実はその前にノラが“あなたって強気だって誰かに言われたことはある?”と言ったことと呼応しているというのも、絶妙におしゃれ」
寝かせてもらえるなんて思っちゃダメよ。
『マリアンヌ』アマゾンプライムビデオ、YouTube ムービー、Google Playなどで配信中。DVD¥1,429(NBCユニバーサル・エンターテイメント)
第二次大戦中に、対ナチス工作員としてコンビを組み活躍、任務終了後に結婚をしたマックスとマリアンヌ。二人は結婚後ロンドン郊外に暮らし始める。ある夜ベッドで真面目な電話をしていたマックスの邪魔をしようと、マリアンヌは彼の下半身を弄ぶ。快感を必死にこらえて電話を終わらせたマックスに、マリアンヌが言ったひとことがこちら。「男性がよく言いそうなセリフですが、それを女性が、しかもちょっと愛らしく言うところがセクシー。性的にアクティブだと“はしたない”といわれていた時代に、夫とのセックスを楽しんでいるマリアンヌの存在自体が色っぽい」
僕のすべては君のものだ。
『フィフティ・シェイズ・ダーカー』アマゾンプライムビデオ、YouTube ムービー、Google Playなどで配信中。DVD¥1,429(NBCユニバーサル・エンターテイメント)
官能映画『フィフティ・シェイズ』シリーズの第2弾。1作目で破局した大富豪・クリスチャンと、アナスタシアが復縁。が、さまざまな人の登場で二人の関係に亀裂が。「二人の関係を考え直したいと言ったアナに対し、土下座をし、アナの手を自分の心臓の上に当て、クリスが言うセリフ。SM関係である二人にとって、自分のすべてを相手に委ねる信頼関係こそが究極の愛。このひとことは、もともとアナのご主人様だったクリスが逆にアナへの従属を示す意味をも含んでいる。普通の恋人同士でも響きますが、主従関係にある二人にとっては、最高に官能的な言葉だと思います」
俺は長くゆっくりとしていて、深くてソフトで、しかもしっぽりと3日間も続くようなキスを信じているよ。
『さよならゲーム』DVD¥1,419(20世紀フォックス ホーム エンターテイメントジャパン)
舞台は野球のマイナーリーグ。ベテラン選手のクラッシュと新米ピッチャーのヌーク、野球グルーピーの熟女アニーの三角関係を中心とした、スポーツロマンス映画。「アニーに“あなたは何を信じるの?”と聞かれたクラッシュが、“魂、美味しいスコッチ、かわいい女性のお尻、カーブボール…”などとまくし立てた後に言ったセリフがこれ。自分がどういう人間なのかを開示し、聞いた側が思わずセックスを想像してしまうようなセリフを最後にドン。明らかに“君とセックスがしたいんだ”という思いが含まれていて、実際それを聞いたアニーは、すっかりその気になりました(笑)」
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睡眠用じゃないんだ。
『ブレイキング・ドーン Part2/トワイライト・サーガ』アマゾンプライムビデオ、YouTube ムービー、Google Play、Netflixなどで配信中。DVD¥1,000(KADOKAWA)
ヴァンパイア映画『トワイライト・サーガ』シリーズの5作目。ヴァンパイアのエドワードと結婚し、自らも吸血鬼になったベラ。娘も生まれハッピーな一家は、森の中のコテージを新居として贈られる。室内をエドワードに案内され、寝室にベッドがあるのに驚いたベラが、“ヴァンパイアは眠らないと思ったわ”と言ったのに対する、エドワードのセリフ。「エドワードはもともと、あまり表情が変わらないクールなタイプで、冗談などはまったく言わなそう。そんな彼が、冗談めかした言葉でベッドの使用目的をさらっと説明し、性的な関係を示唆しているところが、とてもセクシーです」
やまがた・みどり 映画ライター。弊誌をはじめ、女性誌や映画雑誌、ウェブなどで、映画評やインタビュー記事を多く執筆。
※『anan』2020年4月1日号より。取材、文・河野友紀
(by anan編集部)