対話をして相手を知る大切さを映画で学べます。
「9月末に公開されるアンドリュー・ヘイ監督の『ウィークエンド』は、2011年の作品です。第21回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭などのイベントで上映されたことはありますが、いよいよ日本で初めて劇場公開されることになりました。これは実は、ゲイを主人公にした作品の作風が大きく変わった、ターニングポイントとなる映画です。それまでは、『ブロークバック・マウンテン』に代表されるように、結ばれてもそうでなくても最後には死ぬといったドラマティックな悲恋ものがほとんどでした。でも、『ウィークエンド』で描かれていたのは、クラブで出会った二人の週末だけの物語。お持ち帰りや年齢差のあるカップル、意見の食い違いなど、ゲイの出会い系における“あるある”が満載で、これまでになかった日常を描くということに切り込んだのです。以降、市井のセクシュアルマイノリティや、異性愛者の社会保障に入りにくいなど現実的な悩みが登場する作品が主流となっています」
昨年公開された『ゴッズ・オウン・カントリー』も、その一つ。
「牧場を営むジョニーと季節労働者のゲオルゲの男性同士の恋物語です。イベントや映画館での限定上映からスタートし、口コミやSNSでその評判が広がって、全国公開にまで拡大しました。ただ、日本映画にそういったムーブメントがあるかというと、まだないのが実情です。『俺のスカート、どこ行った?』『きのう何食べた?』『腐女子、うっかりゲイに告る。』が同時期に放送されたように、ドラマ界には新しい動きが起こっているだけに残念といえます。今後に期待したいところです」
先述の2作以外にも、セクシュアルマイノリティが登場する名作は、数多く存在する。そこには、LGBTQの現状を知るヒントがたくさんあると、よしひろさん。
「例えば、1980年代イギリスを舞台にした『パレードへようこそ』は、サッチャー首相と警官という共通の敵を持つ炭鉱町とLGBTQコミュニティが手を組む物語です。最初はセクシュアルマイノリティに偏見を持っていた人たちが、対話をし、一緒に戦うにつれて、相手を理解し始める姿には感動してしまいます。また、ゲイであることを告白した父と戸惑う息子を描く『人生はビギナーズ』は、監督であるマイク・ミルズの実体験がもとになっており、カミングアウトをする方とされる方の気持ちが繊細につづられています。それぞれの映画を観ると、自分とは違うセクシュアリティを持つ人を異質なものとして突っぱねるのではなく、対話をして理解し合うことの大切さを教えてくれます。それは、性にまつわることはもちろん、どんな問題と向き合ううえでも大切なことですよね。映画は、“違う人がいるのが社会”ということを、理解のない人に知ってもらうための良きツールだと思います」
よしひろさんおすすめの注目作品をピックアップ。観て、さらに理解を深めてみよう。
『WEEKEND ウィークエンド』 ライフガードのラッセルは、一夜限りの相手を求めて訪れたクラブで、アーティストを目指すグレンと出会う。年の離れた二人は会話を通じて、お互いの秘密やこだわりについて知っていくが…。9/27~、YEBISU GARDEN CINEMAほかで公開。
『ゴッズ・オウン・カントリー』 イギリスのヨークシャーを舞台に、2人の青年の出会いから愛が生まれる瞬間までをつづった名作。ベルリン国際映画祭やサンダンス映画祭など、多数の映画祭で賞を受賞。監督はフランシス・リー。Blu-ray&DVD発売中 発売・販売元:ファインフィルムズ
『キャロル』 デパートで働くテレーズと、そこへ買い物に来たキャロル。同性ながらも強く心惹かれ合い、異性のパートナーがいながらも逢瀬を重ねるようになる。「キャロルの眼差しから、その思いが伝わってくる。演じるケイト・ブランシェットの美しさに魅了されます」DVD¥3,800 発売・販売元:KADOKAWA
『人生はビギナーズ』 75歳の父親・ハルに、ゲイであることを告白されたオリヴァー。内気な彼だったが、父が亡くなった後に行ったパーティで運命の女性と出会う。「余生を若い恋人と過ごすハルを見ると、親には、彼のように幸せに、自由に暮らしてほしいと感じるはずです」DVD¥1,500 発売元:クロックワークス 販売元:アミューズソフト ©2010 Beginners Movie, LLC. All Rights Reserved.
よしひろまさみち オネエ系映画ライター、編集者。小誌をはじめ『otona MUSE』『sweet』など、様々な媒体で執筆を行う。『スッキリ』(日本テレビ系)では、月1オススメ映画紹介を担当している。
※『anan』2019年8月14日-21日合併号より。取材、文・重信 綾
(by anan編集部)
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