舞台は、所属するスタッフが女性ばかりという〈ミツコ調査事務所〉。所長・山之内光子の、初恋相手を探すというアイデアで、評判を呼んでいる。1話め「エンゼル様」の依頼者は、30年以上音信不通だった知り合いを探したいという末期がんの人物。2話め「トムクラブ」の依頼者は、自分が所有していたマンションを買った男が犯罪に関わっていると疑い、素性を知りたがる。
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そんなワケありな人探しミステリーとして始まる『初恋さがし』。しかし、イヤミス女王の真梨幸子さんが書く小説が、それで終わるはずがない。ページが進むにつれ、じわじわゾワゾワと違和感が迫ってくる。

「初恋って宝物のように思われているふしがありますが、はたから見れば、たいした思い出ではなかったり。ただ当人にとっては忘れがたい気持ちがするし、すみずみまで詳細に覚えているもの。だから、小説や映画でも何度も描かれてきましたが、甘酸っぱくてステキな話ばかりではないですよね。成就はしないし、暗澹たる思いを抱えて終わるのがほとんど。だから、イヤミスに似合うんじゃないかと思ったんです。考えてみれば私自身も、あれが初恋かもと思う相手が特撮ヒーロー『人造人間キカイダー』のジロー。2.5次元です。決して知られたくなかった秘密だったんですが、クラスの男の子たちにバレて、恥ずかしくて。いまもトラウマです。あ、初恋って初トラウマのことかもしれませんね(笑)」

実際、依頼者の心にあるのは、懐かしさからくる思い出探しではない。

「たとえば『エンゼル様』は、一種の復讐をもくろむ更年期世代の女性たちの物語ですし。私は更年期は第二の思春期だと思っているんです。ホットフラッシュなど体の不調が話題になりますが、気分の浮き沈みがあって、ふと母親とか元彼とか誰かに言われたイヤなことを思い出したりと、メンタルの不調も大きい。それでいて、知恵も財力もある年ごろなので、復讐しようと思えばできてしまう。思春期よりずっとやっかいで危険だな、と思います」

7つある物語に、少なからずつながりがあるとわかってからはジェットコースター。緻密な設計図がありそうなのに、いつも登場人物が憑依して書かされている感覚で、結末もなりゆきまかせというのが驚きだ。

「最初狂言回し的な役だったミツコの存在感がどんどん増していったのは、真犯人に私が乗っ取られたせいかも。イヤミスの真骨頂は、主役がひどい目にあうところですが、そのあたりのサプライズはちゃんと仕込んでいます。担当さんにも『だまされました』と言われて、快感でした」

秋ぐらいには、前々から興味があったという法廷画家を主人公にした新刊が出る予定。

「また、最近、日課として欠かさないのが、住宅情報サイト『スーモ』と事故物件の情報提供サイト『大島てる』の物件チェックですね。執筆前の儀式になってます(笑)。いずれは、不動産業界のダークな部分を絡めたイヤミスにも挑戦したいです」

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まり・ゆきこ 1964年、宮崎県生まれ。作家。2005年、『孤虫症』でメフィスト賞を受賞。’11年に文庫化された『殺人鬼フジコの衝動』が大ベストセラーに。近著『ツキマトウ』ほか、著書多数。

『初恋さがし』 東京・高田馬場駅にほど近い〈ミツコ調査事務所〉のウリは〈初恋の人、探します〉。でもきょうも依頼人は一風変わった人探しをご希望で…。新潮社 1600円

※『anan』2019年6月19日号より。写真・土佐麻理子(真梨さん) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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