もしも今ある社会システムが崩壊して、世の中がもっとシンプルになったら、人は何を拠り所に生きるのだろう。主人公の青年・ユキが最も重きを置いているのは、タイトルになっている「一日三食絶対食べる」こと。しかも大切な人と一緒に、だ。
「『南極料理人』という映画が好きなんです。ものすごく過酷な環境だけど、おじさんたちが楽しそうに仕事をしていて、そういう世界をマンガにしてみたいと思いました」
舞台は環境問題の悪化により、氷河期を迎えた世界。生き残った少数の人類は高層ビルを居住空間(ビオトープ)に、自給自足の集団生活を送っている。ユキもその一員で、リッカという少女と家族を失った者同士、助け合いながら同居している。悲壮感がそれほどないのは、先の映画が構想のきっかけであることに加えて、ユキのヘタレっぷりによるところも大きいようだ。物語はユキの就職活動の場面から始まるのだが、病弱なリッカにおいしいものを食べさせたい思いから、文句タラタラ働くことに。
「私も会社勤めの経験があります。大変だったけど先輩と仲良く愚痴を言いながら仕事ができたので、今では楽しかった思い出になっていて、それがユキとスギタのコントみたいなやりとりに繋がっています」
ユキはマイナス45°Cの雪原で、氷のなかから植物や生活用品など前時代の“遺品”を切り出す、少々危険な仕事をすることに。会社員時代の作者の経験が生かされているだけあって、上司とのやり取りやチーム間の軋轢など、仕事を通して描かれる感情はとてもリアルだ。
「今はお金を稼ぐだけでは、精神的に満足できないような人も多いと思うのですが、仕事の目的が自己実現ではなかったり、やりたい仕事がないような状況で、それでもなぜ働くかっていうと、大事な人と一緒にごはんを食べるためなのかなって」
オムライスやホットケーキなど、貴重な食材で丁寧に作る、質素だけどおいしそうなふたりの食事も見どころのひとつ。過酷な環境ゆえに、温かさや優しさがより染みてくる。
「これからもユキの成長をメインに、いろんな家族のかたちや、ビオトープを継続させるために働く人たちなどの姿を描いていきたいです」
現代人の複雑な感情を持ち合わせたまま、ふりだしに戻ってしまった世界で生きる人々を通して、本当に大事なものについて考えさせられる。
『一日三食絶対食べたい 1』滅亡寸前の世界で、少女のためにダメ人間が立ち上がる。読み切り作品が反響を呼び、連載化が実現。働くことの意味や家族のあり方を、軽やかなタッチで描く。講談社 630円
くのだ・しょう マンガ家。『三途の川でワルツを』で「アフタヌーン四季賞2015年秋のコンテスト」萩尾望都特別賞を受賞。『宇宙のライカ』で、同賞2017年春の四季大賞受賞。
※『anan』2019年4月17日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)
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