
漫画『レタイトナイト』の作者、香山哲さんにインタビュー。
一緒に旅をしている気持ちになってもらえたらうれしいです
エッセイ漫画『ベルリンうわの空』で、移住先での肩肘張らない暮らしを描き、共感を呼んだ香山哲さん。「居場所発見ファンタジー」と銘打つ本作は、その経験があって生まれたと感じさせる冒険物語だ。
「どこに住むか、どんなキャリアを積むかなど、将来についてまだそれほど考えていない若い世代に興味を持ってもらえるといいなと思いながら、主人公や時代を設定しました」
レタイトという北方の国の小さな集落に住む15歳の少年カンカンは、働いても豊かにならない人々の暮らしぶりや、町に漂う閉塞感に釈然としない思いを抱えている。
「環境が多少悪くなっても耐えて頑張ろうとする人もいるけれども、カンカンは僕と一緒であまり我慢強くないというか、もっと良くなったらいいのにと考えるタイプですね」
外の世界を知ろうとするカンカンの問題意識や行動力に影響されるのが、一緒に暮らす叔父のマル。
「彼は35歳くらいの設定で、一念発起して昔やりたかったけどできなかった旅に出ます。この年齢のリアリティを僕なりにイメージしました」
旅のスタイルには、性格や経験値が出やすいもの。別々に出発するふたりの宿の決め方、食事、小遣い稼ぎの方法など、快適かつ安全で経済的負担もなるべく少なくするための思考と工夫が、丁寧に描かれる。
「人によって優先事項が違うのも旅の面白さだと思います。僕自身、細かく書かれている旅行記が好きなのですが、一緒に旅をしている気持ちになってもらえたらうれしいです」
見知らぬ土地で不安や心細さを覚えたり、居心地がよくなって本来の目的を忘れてしまったり。出会った人たちとのやり取りも興味深い。

Ⓒ香山哲/リイド社
「たとえば、こちらが欲しいものに高値をつけるような商売人も、実は持て余すことを見通して買わせないようにしているだけかもしれない。怪しそうな人にも怪しいなりの誠実さや仁義があったりなど、そういう意外な一面を描くのが好きですね」
動物などをモチーフにした不思議なキャラクター、隅々まで描き込んだ街並み、自然、建物の内部など絵をじっくり味わいたい作品でもある。
「性格が表に現れているキャラクターデザインのほうが一般的には多いと思うのですが、僕は現実とかけ離れていたほうが心地よさを感じるので。強いキャラクターならライオンではなくウサギっぽくするとか、逆のイメージで描いたりします」
カンカンの「何かがおかしい」という思いは、広い世界を見ることでどう変わっていくのか。ファンタジーが合わせ鏡となり、私たちがいる場所を幾重にも映し出してくれる。
Profile
香山哲
かやま・てつ 漫画家、文筆家、イラストレーター、ゲームクリエイター。著作『ベルリンうわの空』『香山哲のプロジェクト発酵記』など。今は日本在住。
information
『レタイトナイト』2巻
叔父のマルを追って、ついに外の世界に出ることができたカンカン。ふたりは無事に出会えるのか。力を持たざる者たちによる「居場所発見ファンタジー」。リイド社 1100円
anan 2503号(2026年7月8日発売)より

































