読む人の心に体当たりしてくるような、ビビッドなのに繊細な心理描写に痺れる。『恋とか夢とかてんてんてん』は世良田波波さんの初連載。

夢にも異性にも「片思い」状態。等身大のリアリティに心を掴まれる。

恋とか夢とかてんてんてん 世良田波波

「恋愛マンガだとか夢を追う人のマンガだとかいうより、カイちゃんという人間の“不格好な人生のマンガ”じゃないかなと思っています」

主人公は、29歳のフリーター・カイちゃんこと貝塚道子。挫折の連続で砂を噛むようだった東京での生活の心のオアシスになったのは、〈高円寺くん〉というハンドルネームのイケメン会社員だ。ところが、彼に異動辞令が下り、彼を追って大阪での新生活をスタートさせることに。

「自分とあまりにもかけ離れている主人公で描いたりできなくて。物語はフィクションなんですが、何かやりたくて東京に憧れて上京して…みたいなカイちゃんの境遇は、私と近いです。上田正樹さんの『悲しい色やね』という曲が好きで、大阪はああいう哀愁のある恋が似合う街で、最初はそんなイメージで描くつもりだったんですが、暴走気味の恋愛に(笑)。でも、あの曲から感じる情景はこのマンガで大切にしています」

SNSで「いいね」をつけてもらうだけで舞い上がってしまうくらい、ピュアな恋心を爆発させるカイちゃん。高円寺くんのささいな反応に一喜一憂する姿は、実は誰もが経験したことのある、忘れがたい感情だろう。自分と重ねて切なくなる人、遠い青春として懐かしむ人…共感するファンが、年齢性別を超え続出中。

「リアリティを出す上で意識しているのは、キレイごとで済ませないで、人間のイヤな部分も恥もさらけ出すことですね。このマンガの登場人物はみんなわがままで自己中かもしれないです。でも、世の中のほとんどの人は自分のことだけで精一杯なんじゃないかなって思います。若い人は特に。ある程度わがままに生きてもいいって思う。人間のいいところもダメなところも描いていきたい」

大阪のバイト先はコンビニで、ミュージシャンになりたい夢を追う同い年のスタッフ・千林(せんばやし)を前に、カイちゃんの思いは複雑だ。高円寺くん以外との人間模様も気になるところ。

「カイちゃんはいま必死に心の拠りどころを探している感じなんですよね。その安息の地は、人を本当に愛することかもしれないし、自分自身を認めてあげることかもしれない。目標だった絵の道と向き合うことかもしれないけれど、違うものかもしれない。最終的には夢にたどり着くかどうかもわからないけれど、カイちゃんの人生を一緒に追いかけてもらえたら嬉しいです。いろいろうまくいかない、だけど生きていく! それが人生だと思うので」

恋とか夢とかてんてんてん 世良田波波

『恋とか夢とかてんてんてん』1 Webマンガサイト「SHURO」で月イチ更新、好評連載中。カイちゃんと高円寺くんの現在をぜひチェック! 大阪の実在するお店や風景も多数登場。小社刊 1100円 ©世良田波波/マガジンハウス

せらた・なみなみ マンガ家。兵庫県出身。18歳で上京。その後、紆余曲折を経て現在は東京在住。2006年に『アックス』(青林工藝舎)で誌面デビュー。

※『anan』2024年6月12号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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見立ての甘さや準備不足などから壁にぶち当たる経験と、そんな自分の未熟さを省みるという意味の日です。何かに挑戦するというのは勇気のあることですが、周りから無謀だと止められるほどのことであれば、冷静になって考え直すのも大切なことです。日々実力をつけながら、味方を得たうえで改めて挑めばいいのですから。

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