日本での展覧会は8年ぶり! 村上隆、最新作のテーマは“もののけ”と“京都”

2024.1.29
21世紀のアートワールドの主要プレイヤーとして世界から注視される村上隆さんが、最新作をひっさげて京都の街に降り立つ。日本での展覧会は8年ぶり。“もののけ”、そして“京都”がテーマである。

現代美術の最前線が描く、京に蠢(うごめ)くもののけたち。

岩佐又兵衛《洛中洛外図屏風(舟木本)》、曾我蕭白(しょうはく)《雲龍図》などの村上版超大作をはじめ、京都祭礼行事や茶華道から着想した作品など、170点余りのうち約160点が新作という超人的な構成だ。引用される作品はいずれも江戸期の京都で花開いた琳派や狩野派、そして近年、高い評価を得る曾我蕭白、伊藤若冲(じゃくちゅう)ら「奇想の系譜」の画家たちによる日本絵画史上の傑作ばかり。「村上版」においては、京の町に漂うもののけの気配がより濃厚に描かれる。

全長約13mの大作、村上版《洛中洛外図》は、祭りや遊里、歌舞伎や浄瑠璃に興じる二千数百人の人々が登場。賑やかな都の様子を俯瞰して描くものの、その頭上には禍々しい髑髏(どくろ)の形を帯びた錦雲がたなびいている。平安京のインスタレーションでは、八角形の部屋の東西南北に町を守護する神獣(青龍、白虎、朱雀、玄武)の大型絵画を配置。中央には京都のへそと呼ばれる六角堂から着想を得た《六角螺旋(らせん)堂》がたたずみ、周囲をもののけがさ迷う。華やかな表層を1枚めくるとハレとケガレが隣り合う、もう一つの都の姿が立ち上がってくるようだ。

「村上版」を含め、新作のテーマを設定したのは、京都市京セラ美術館・事業企画推進室ゼネラルマネージャーを務める高橋信也さん。

「村上隆さんが京都で展覧会をする必然性を、私は確信していました。江戸期の京都の美術に並々ならぬ関心を持っていることは、村上さんの絵を見ればよくわかります」

これらの絵画のうちに村上さんが見出したのは、現代のアニメや漫画にも通底する「スーパーフラット」という原理。一点透視図法が浸透する以前、日本の絵師たちは2次元の紙の上でさまざまな構図を試みた。一瞬を切り取る独特のタイミング、四角い平面の中を緊張感を持って成り立たせる事物の配置の仕方など。そして村上さんは現代のアニメや漫画の1シーンやコマ割りでも、同じ方法で効果をあげていることを発見。2000年の「スーパーフラット宣言」以来、自身の創作においてこの原理を用いる姿勢を貫いている。

「現代美術とは1917年にマルセル・デュシャンが発表した《泉》(男性用便器を用いたレディメイド作品)以降、新しい認識をもたらさないものは認めないという、欧米の作ったルールに則って運営される視覚分野の1ジャンルです。その分野で村上さんは、古典的な技術も含めて日本美術のオリジナルな方法、つまり『スーパーフラット』で挑戦し続けるトップランナーなのです」

西洋美術にとって未知の領域として評価されているという、その絵画はどのように作られるのか。

例えば1枚の絵画に対して、シルクスクリーンを何百版と重ねる工程を経る。そして仕上げに透明な樹脂を塗ると、ぺらっと薄いセル画のように見えるのだという。が、横から見るとキャンバスの上にスクリーンを重ねた分の厚みがあり、完全なペインティングであることがわかる。

「海外の人にどうやって描いたのかと聞かれますが、全く新しい視覚体験に近いものだと思います」

村上さんの著書『想像力なき日本』に現代美術とは“作家が生きていた時点での現代”を時代を乗り越えて伝えるもの、という言葉がある。「現代」を一番パワフルに表現しうる手段として「スーパーフラット」で真っ向勝負する村上さんのよりどころが京都にある。この地と向き合って生まれた最新作の数々、気迫と美しさに触れてみてほしい。

日本初公開。全長18mの赤い龍は圧巻。

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「奇想の系譜」の画家、曾我蕭白の《雲龍図》に衝撃を受け、筆で描いた。美術史家の辻惟雄氏と共にボストンで開催した展覧会の目玉となった。日本では初公開。
村上隆 Takashi Murakami《雲竜赤変図《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》》 Dragon in Clouds – Red Mutation:The version I painted myself in annoyance after Professor Nobuo Tsuji told me,“Why don’t you paint something yourself for once?” 2010年 作家蔵 Collection of the Artist ©2010 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

神獣が守る村上版「平安京」が会場に出現。

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(左)平安京を模したインスタレーションでは、さまざまな姿のもののけがさまよい、人間と共存していたさまを描く。
村上隆 Takashi Murakami《想像を超えた宇宙の活性を想起する》Invoking the Vitality of a Universe Beyond Imagination 2018年 作家蔵 Collection of the Artist ©2018 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

(右)本作品には髑髏のモチーフがちりばめられ、生と死が隣り合う平安京の不穏な気配を漂わせている。
村上隆 Takashi Murakami《竜頭 Gold》 Dragon Heads -Gold  2015年 作家蔵 Collection of the Artist, Courtesy of Galerie Perrotin ©2015 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

京都で活躍した絵師たちの代表作を大胆に再解釈。

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尾形光琳から着想を得た作品。正面を向く顔のある花は「スーパーフラット」の象徴的モチーフ。
村上隆 Takashi Murakami《金色の空の夏のお花畑》(参考画像) Summer Flower Field under the Golden Sky 2023年 ©2023 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

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村上隆 むらかみ・たかし 1962年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。英国の雑誌『Art Review』が発表する「アート界で影響力のある100人」に10年連続で選出。今年はブルックリン、香港ほか、世界各地で個展を開催予定。
撮影:Museum of Fine Arts, Boston ©2017 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

「京都市美術館開館90周年記念展 村上隆 もののけ 京都」 京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ 京都府京都市左京区岡崎円勝寺124 2月3日(土)~9月1日(日)10時~18時(最終入場は17時30分まで) 月曜休(祝日の場合は開館) 一般2200円ほか TEL:075・771・4334

※『anan』2024年1月31日号より。取材、文・松本あかね

(by anan編集部)