シングルマザーの厳しい現状を実感し決意! 人気スタイリストが開いた「こども食堂」に迫る

2023.4.1
ハッピーが広がるあの人のSDGsアクション。誰もがワクワクできる場所を目指して、こども食堂から温かい繋がりを創出している、木津明子さんに話を聞きました。

様々な出会いがこどもを守り、成長するきっかけにも繋がる。

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2021年8月に「こども食堂レインボー」を開店したスタイリストの木津明子さん。多くの女性から支持される売れっ子スタイリストで、2児のシングルマザーとして毎日多忙な生活を送る中で、木津さんがこども食堂を開こうと思ったのは、ひとり親世帯がもらえる手当があると知人から聞き、地元の役所に行った帰り道だった。

「児童扶養手当という制度なんですが、国や自治体のサイトを調べてみてもよくわからなかったので、実際に役所に行って話を聞いてみたんです。すると自治体によって制度の内容は異なると思いますが、私が住む地域では当時、月収が19万円以下でないと受給できないと言われたんです。その時に、シングルマザーの厳しい現状を知り、『日本は大変なことになっているぞ!』と、率直に驚いた。そこで少しでもひとり親の助けができることをしたいと、こども食堂を開くことを決めたんです」

「何かしなければ!」と危機感を抱いた木津さん。しかしスタイリストである彼女が、なぜこども食堂を?

「ごはんを作って振る舞うことは昔から好きだったし、それに毎日忙しくても料理をする時間はなぜか無心になれたので、とりあえず今の私にできることは、こども食堂だと思ったんです。役所の帰り道に決意し、次の日には周りの人にこども食堂をやることを宣言し、その4か月後に開店しました。最初は、周りに頼らずにひとりで開こうと思っていたので、簡単に作れそうな豚汁とおにぎりを提供しようと考えていたのですが、周りの人に宣言したことで、支援金や物資を支援したい、食堂を手伝いたいと賛同してくれる人がありがたいことに多くいて、それならちゃんとお金を生み出しながら運営したほうが持続可能なこども食堂が開けると思い、一般社団法人にしました」

メインスタッフは木津さんのほかに3人。さらに12人の運営スタッフがいて、お給料を支払い、シフト制で月2回のこども食堂を開店している。

「ボランティアでお手伝いしたいと言ってくれる方もいましたが、みんなに気持ちよく働いてもらうためにもしっかりと給与を支払うことでフェアな関係が築けると思ったんです。それにそのほうが、ひとりひとりが個の力を活かしやすくなるし、責任がある良い仕事ができる。毎回、こどもたちにおいしいごはんをお腹いっぱい食べてもらいたいから、料理を一度にたくさん作るのは本当に大変ですが、一品一品こだわって作りたいので、給料制にしたのは正解でした。表参道にあるフリースクールでこどもたちに食事を提供する活動を行っている料理研究家の寺本りえ子さんにも相談。こどもが食べやすいメニューを教えてもらい、栄養バランスを考慮して毎回献立を考えています。食材は、仕事の関係でたくさんの人と話す機会があるので、その繋がりで生産者の方々に出会い、野菜は送っていただいています。もちろん足りない分は購入してまかなっています」

繋がりを育んでいくために、支援チケットを導入。

こども食堂の運営費や人件費をはじめ、持続的にこどもたちに食事を無料で提供するため、支援チケットというシステムを導入しているのもユニーク。

「今現在、自治体や企業の援助を受けていないので、みなさんからの支援金でこども食堂を運営しています。支援金は、こどもたちの食事のチケットを購入していただく形です。支援者の方々のお名前をチケットに『○○さん』と書き、食堂の入り口に並べています。こどもたちはそのチケットから1枚選んで、それによって1食食べることができます。このシステムを採用したのは、何だかわからないけど無料でごはんが食べられるという夢みたいなことじゃなく、人に助けてもらっていると感じてほしかったから。会ったことがない人でも名前が書いてあると、その人の思いを感じて心から感謝することができる。するとそこに繋がりができて、笑顔の連鎖が生まれるんです。だから私も支援してくださる方のためにもSNSを通して、活動をできる限り伝えていくようにしています」

木津さんがこども食堂を運営していく中で心がけていることは、明るくて誰もが来たいと思える場所にすること。その思いが伝わり、今では毎回多くのこどもたちが遊びに来るようになった。

「閉鎖された場所にしてしまうと、誰も来てくれないし、本当にこの場所を必要としている家庭にも届かない。でもあそこに行けば、美味しいものが食べられて、楽しいことがたくさんあると思えるオープンな場になれば、自然とこどもたちは集まってくれる。今ではこどもスタッフもいて、いろんなコミュニケーションが生まれています。地域の人たちが繋がることで、こどもを守る人の目が増えて、犯罪に巻き込まれにくくなるし、この場を通して、こどもと大人が交流を持つことで、様々な気づきや成長が生まれると思っています。それにこども食堂を利用することで、保護者もごはん作りから一回解放されてハッピーになれる。ママパパがご機嫌だと、こどももうれしい。これも笑顔の連鎖に繋がっていますよね。

目標は、寺子屋みたいなこども食堂にすること。今でもスタイリストや編集者、カメラマンなど私の仲間がたくさん来てくれているから、いろんな職業の人と触れ合うことができるので、こどもたちの可能性を広げることにもなると思っています。もっといろんな学びを提供する場にしていきたい。私たちの活動が、こどもたちを救えることに繋がっているかと聞かれればわからないけれど、私が今できることは、みんなが毎回来たいと思えるような場所を提供し続けること。こども食堂は全国各地に増えていますが、なかなか支援が集まらず、運営し続けていくのが困難になり、道半ばでやめてしまうケースも多々あります。だからこそ支援チケットは大きな支えになっているし、さらに継続的に支援していただけるよう、企業のパートナーシップを探している最中です。この事業の成功モデルが構築されれば、全国各地にもこういう楽しい場がどんどん増えていき、新たな雇用を生み出すことにも繋がり、多くのこどもたちを笑顔にすることができると思っています」

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栄養バランスを考慮してレシピを考案。昼はどんぶりと味噌汁、夜は魚・肉の2品のメインに3品の副菜をのせたワンプレートごはんと味噌汁を提供。

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これまでに100人以上が支援チケットを購入。食事を提供するだけでなく、ヘアメイクアップアーティストがこどものヘアアレンジをしたり、みんなで紙芝居を読んだりと、毎回楽しい交流が生まれている。
写真・中川真人

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こども食堂レインボー
月2回土曜日開催。支援チケットは¥1,500(食券3枚分)~。単発、月額の定期便から選べる。https://kodomorbw.base.shop 神奈川県横浜市磯子区洋光台2‐1‐11 洋光台北団地1街区11号棟ラウンジ 12:00~14:00、17:00~19:00 こども無料、おとな¥500。Instagramは@kodomorainbow

きづ・あきこ スタイリスト、「こども食堂レインボー」主宰。2007年に独立し、本誌のほか、『otona MUSE』(宝島社)など、ファッション雑誌や広告を中心に活躍。多くの俳優、モデル、タレントのスタイリングを手がける。12歳の長女、7歳の長男と3人暮らし。

※『anan』2023年4月5日号より。イラスト・かりた 取材、文・鈴木恵美

(by anan編集部)