「岩井さんって、ご自身も楽器を演奏されるんですけれど、たぶん音楽がものすごく好きで、そこにちゃんとリスペクトがあるんですよね。音楽を一緒にやっているとわかるんですが、ハズし方が絶妙なんです。シャイでカッコ悪いことが好きじゃない方ですし、たくさん鏡を見て築き上げてきた客観性で、隙があるようでまったくない。かなり高度な作品をこれまで作ってこられたと思うんですが、それは音楽に関しても同じ。本当はこう弾けるけれど、あえて崩して抜けを作り、ギリギリのところで何かを表現するという、とても高度なことをやられるんです」
今回のミュージカルに関しては、「欲しい音が岩井さんの頭の中にすでに鳴っている気がする」と話す。
「ピアノを習い始めた岩井さんがご自身が好きなコード進行を弾いて、そこに合わせて僕が歌う形で何曲か作ったんですが、『勝った!』って言ってました(笑)。細かい音楽への要求を素直に聞いてみるのが今回の僕の仕事かなと思っています」
4人の男たちの約60年にわたる人生を描いた本作。それぞれにとっては切実ながら、ドラマティックというほどでもない、誰にでも起こりそうな出来事が淡々と描かれていく。
「日常の些細な会話やしょうもない言い訳、ボソッと出る独り言とかが歌になっていますが、すごい着眼点ですよね。どれも日常に近い言葉だったり感情ですが、そこに音が乗り宙に舞ったとき、『愛している』みたいなことよりもずっと飛距離が出るし、希望を感じるものになる。岩井さんはそんな音楽の力を使いたくて、ミュージカルを作ろうと思ったのかもしれないですね」
キャストの中には、ミュージカルの金字塔といわれる『レ・ミゼラブル』で主役をはった吉原光夫さんや橋本さとしさんも名を連ねる。
「キャストのみなさん全員が天才なんです。動きひとつ、セリフを発するときの表情や声に、その人が生きてきた厚みや人間的な魅力、その雰囲気が表れていて、歌声に触れるだけで幸せな気持ちになる。アンサンブルの方まで全員が天才です」
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ ミュージカル『おとこたち』 時おりカラオケボックスや飲み屋に集まっては、互いの近況を語り合う4人の男たち(ユースケ、藤井、吉原、橋本)。20代から80代までを行き来しながら綴られる、4者4様の人生とは――。3月12日(日)~4月2日(日) 渋谷・PARCO劇場 脚本・演出/岩井秀人 音楽/前野健太 出演/ユースケ・サンタマリア、藤井隆、吉原光夫、橋本さとし、大原櫻子、川上友里ほか 全席指定1万1000円ほか パルコステージ TEL:03・3477・5858 https://stage.parco.jp/program/otokotachi 大阪、福岡公演あり。
まえの・けんた 1979年2月6日生まれ、埼玉県出身。2007年にシンガーソングライターとしてデビュー。音楽活動のかたわら、大河ドラマ『いだてん』など俳優としても活躍。岩井さんとは、’17年の舞台『なむはむだはむ』、’19年の音楽劇『世界は一人』に続き3作目に。
※『anan』2023年3月15日号より。写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・西川直子 インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)