自分の“惹かれる気持ち”と対峙するきっかけに。心をえぐられる人が続出!
辻村深月/朝日文庫
突然、目の前から姿を消した婚約者・坂庭真実の居場所を捜す西澤架。行方を追って地元を巡り、話を聞くうち彼女の知らなかった一面やさまざまな過去、さらには、自分自身と向き合うことになり…。
- M子 35歳、医療系。長らくマッチングアプリを活用して婚活をしていたが、最近、居酒屋で知り合った人とめでたくお付き合いをすることに。
- W子 32歳、会社員。結婚3年目、2児の母。マッチングアプリは未経験ながら、結婚に焦る登場人物に過去の自分を重ね、今作の沼にハマる。
- S子 34歳、フリーランス。5年ほど付き合ったパートナーと昨年別れ、数年ぶりにマッチングアプリを再開するも、早くも疲れを感じている。
W子 真実が失踪するというサスペンスっぽいシーンから始まるけど、読むにつれて毛色が変化して。恋愛や婚活における人の心理がフォーカスされる展開に夢中になっちゃった。
S子 1回目に読んだ時は、真実を捜す過程で描かれる、マッチングアプリでの出会いに疲れた架の気持ちに共感することが多くて。メッセージを送り、会って、違った…の繰り返しとか。
M子 コピペしたメッセージを送ったりしてたな(笑)。本当疲れるよね。
S子 待ち合わせまでして来ない人とかもいて、多分、実物を遠くから見て好みじゃなくて、帰ったんだと思う。やり切れなさを抱えながら、待ち合わせ場所近くの新宿末廣亭の周りを一人でグルグル歩き回った思い出…。
M子 落語を聴いて癒されてほしかったわ(笑)。そんな奴はいいやと思う一方で、しっかり傷ついている自分がいるんだよね。ジャッジメントをされるのは本当にメンタルと自尊心を削られちゃう。
婚活でうまくいかない時、自分を傷つけない理由を用意しておくのは大事なことなんですよ。
自分が個性的で、中味がありすぎるから引かれてしまったとか(略)。
結婚相談所の小野里さんが放った、身に覚えがありすぎて震えたフレーズの一つ。「モテるファッションじゃないからしょうがない」「人に媚びないタイプだから」とか、いろいろ言ってたな…。(W子)
W子 読者のみんなが震え上がったであろう、結婚相談所の小野里さんっているじゃない? 彼女の「自己評価は低い一方で、自己愛のほうはとても強い」という言葉の破壊力は本当にすごかったな〜。泣くかと思った。
M子 わかる〜! 自分がうまくいかない原因はそこだなと気づかされて目から鱗。辛すぎたけど(笑)。あと、小野里さんといえば、相手に対して〝ピンとこない〞とはどういうことか、という疑問への回答も恐ろしかった。
W子 架と同様に絶句したけど、これも身に覚えがあるんだよね。私、今のパートナーとは23歳の時に出会って告白されたんだけど、当時は付き合わなかったの。でも27歳になって婚活市場での自分の価値が下がっていると感じた時に、〝あの人、結婚したいと言ってたな〞と思い出して、急にピンときたというか。まさに小野里さんの言う通りのことをしていたわ。
つきあって、私は、あなたがいいと思った。
これまでずっと「いい人がいない」と言い続けてきて、あなたと出会って、「この人ならいい」と思った。(中略)
もう大丈夫だと思ったのに。
心惹かれる人と出会い、関係が順調に進展することは奇跡的で、真実の安堵する気持ちに共感。また、その先にある悲しい展開の気配を感じた時の落胆にも共感。真実頑張れ、と応援してしまった。(S子)
S子 でも本当、恋愛関係になることを前提とした出会いって難しい。私、買い物をする時に、たとえば「コートが欲しい」と目的を持って行くと悩みすぎて買えなくて。逆に、ふらりと行った時に欲しいものが見つかるんだけど、これって自分の恋愛にも似てるなと。小野里さんは、婚活がうまくいくのはビジョンが明確な人だと言っていたけど、私はできない。人それぞれに惹かれ方とか恋の落ち方はさまざまで、得意な戦術や出会い方も違うんだろうなと。小野里さんには、だからダメなんだと怒られそうだけど(笑)
M子 自分を高く見積もりすぎているのかもしれないけど、できないことはできないからね。
W子 私、正直、1回目に読んだ時は真実にまったく共感できなくて。主体性がなさすぎてイライラしたりとか。でも、2回目に読んだ時に初めて彼女の気持ちに寄り添えたんだよね。善良さゆえの馬鹿正直なところにびっくりするんだけど、善良であろうとしたことや正しくありたいと思うことって、決して咎められるようなことやバカにされるようなことじゃないんだよなと。
M子 真実に主体性がないのは母親の存在も大きいよね。〝娘のために〞を盾にして、娘を支配してる感じが怖かったな。結局は、自分のためなんだよ。
W子 でも母親本人は、そのことに気づいてないからタチが悪い。
M子 真実の地元に重ねて、自分の地元のことも思い出したよ。結婚することが当たり前、結婚こそが幸せ、という空気が蔓延している感じとか。
S子 あと、真実にとっての結婚には、ライフラインの意味もあったのかなって。うちの地元では女性の給料が高くないから、実家を出るタイミングが結婚という人も少なくないんだよね。周りが結婚してるとか、寂しさもあるけど、今後の生活がかかっていることも焦ったり追い詰められた要因かも。独身女性が不安なく暮らしていける社会なら、もう少し気楽だったかもしれないよね。
M子 たしかに。いろいろなものを背負った婚活なんだろうね。
テンプレのように、アプリを通じて相手と会うまでのやり取りを重ねる、まるでルーティンワークのような日々。
実際に会ってから、今回も違った、と徒労感に襲われる日々。
マッチングアプリに疲れた自分のことを書いているのかと驚き。〝恋愛をするのってこんなに大変なことだったっけ…〞と思っていた日々を思い出した。〝徒労感〞という言葉がぴったり!(M子)
W子 あと、記憶に残っているのが架の女ともだちの美奈子。真実のことが嫌いで、辛辣なことを言うでしょ。彼女はそこまで深刻じゃないノリで言ったことが、真実にはめちゃくちゃ刺さってしまう。美奈子に対して、ひどいことするな〜と思う一方で、自分もこういうことしてきたんだろうなとも。すごく怖くなったし反省した。
S子 わかる。もうね、絶対やってる。恋愛だけでなく、人間関係における自分のダメな部分や弱い部分も突きつけられるから恐ろしい…。生きている以上、誰かに嫌われたりムカつかれたりしながら暮らしていくんだろうね。自分が誰も傷つけずにいられると思っていることこそが傲慢なんだろうな。
M子 でもさ、真実の善良じゃない部分を知り始めてからのほうが、架の真実に対する想いや興味が強くなってるのが面白いよね。人としての深みとか旨みを感じたのかなぁ。
W子 そう思うと、恋愛や人間関係において何が惹かれる理由になるかなんて、本当にわからないってことだよね。
いろいろなことを考えさせられるわ。
M子 私もだけど、今、婚活が辛い人は救われるんじゃないかな。まぁ、棍棒で殴られて、一度めちゃくちゃになる感覚もあるんだけど(笑)。
S子 恋愛や人間関係の価値観と嫌でも向き合わされて癒される。自分を見つめ直したい時にぴったりだね〜。
※『anan』2023年2月8日号より。(by anan編集部)