松本若菜「だいたい死んじゃう役なんですよね…ほとんどの殺害方法は経験 (笑) 」

2022.7.8
ドラマ『やんごとなき一族』では、深山家の長男の嫁・美保子を演じ、そのクセの強い芝居は“松本劇場”と呼ばれSNSで話題に。放送開始直前のドラマ『復讐の未亡人』では、初主演を務めるなど、注目度急上昇の松本若菜さん。役者デビューして15年。上京時の様子から、これまでの軌跡をたどります。
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――役者になったきっかけを教えてください。

私は、鳥取県米子市出身なんですが、高校1年の時に、撮影で米子に奈美悦子さんがいらっしゃったんです。その噂を聞きつけた私と友達は「芸能人がいるらしい!」と探して、駅前のショッピングモールで発見(笑)。握手をしてもらったあと、フードコートで友達と喋っていたら、奈美さんと事務所の社長さんが今度は私を探しに来てくれたんです。そこで「芸能界に興味ない?」と聞かれて。

――王道の“スカウト”ですね。

ところが、話を聞くうちに怖くなってしまって。高校に入学したばかりの新しい環境にまだ戸惑っている最中だったから、それを超えて芸能界に入るなんて、不安でしかなかったんです。だからお断りしました。その後、高校を卒業して就職し、地元で美容部員をしていたんですが、ある時ふと自分の未来を想像した時に、このまま鳥取から出ずに、なんとなく生涯を終えてしまうことがすごくもったいないと思うようになったんです。それで6~7年経ってはいましたが、当時声をかけてくれた事務所の社長に連絡をしました。

――覚えてくれていましたか?

はい、覚えていてくださって。親に内緒で東京の事務所に遊びに行き、いろいろ話をしているうちに、やっぱり芸能界に入りたい、人生に刺激が欲しい、って思って。その足で不動産屋に行き、物件を見つけたんです。一度鳥取に帰って、反対する親に頭を下げて説得して、上京しました。

――すごい行動力です!

私は心配性で、石橋を叩いて渡るタイプなんですが、若い頃の勢いとは別の力が働いて、自ら、あと戻りできないようにしたんです。そうじゃないと、甘くはないであろう世界に飛び込めなかったんでしょうね。その時の私は、人生一“最強”だったと思う(笑)。

――その時から、役者になりたいと思っていたんですか?

いや、私の中では“芸能界”という一括りで、歌手、タレント、役者、お笑い芸人などというジャンルがあることまで考えていなくて。とりあえずお芝居はできた方がいいと、事務所主催のワークショップに1年間通う中で、お芝居の楽しさを知りました。1年後に初めて、『仮面ライダー電王』のオーディションを受けたら、主人公のお姉さん役で合格をもらい、役者デビューしました。

――当時の気持ちは?

1年間この役をやるんだ、へぇーって感じ。何も知らないからこそ不安は全くなく、無敵で(笑)。

――プロフィールには、すごい数の出演作品が並んでいますね。役者人生、トントン拍子に見えます。

でも、だいたい死んじゃう役なんですよね。鈍器で殴られる、首を絞められる、毒を盛られる、転落死…ほとんどの殺害方法は経験しています(笑)。周りからも「また?」って言われて、最初は「また死ぬんだよ」なんて笑っていたんですが、自分が理想としていた“女優像”とは、あまりにもかけ離れていたこともあり、だんだん苦痛になってきて。おこがましくて「女優です」なんて名乗れませんでした。それが24~27歳の頃。“暗黒時代”と呼んでいます(笑)。

――暗黒時代!(笑) どんなところに悩まれていましたか?

理想は、お芝居だけでごはんが食べられること、役者一本で役に向き合って、代表作を持つことでしたが、当時は飲食店のアルバイトをする日々で、オファーも途切れていて。なかでも一番悩んでいたのは、個性がなさすぎること。声も見た目も普通で、周りの人に「個性ってどうやったら出るんですか?」と聞きまくっていました。人と比べてばかりで、苦しかったですね。だから当時は「女優です」って言えなくて、「一応、女優してます」と答えていました。

――辞めようと考えたりも?

いま私が芸能界を引退しても、誰も困らないよな、って思っていたし、自分の存在意義がわからなくなっていました。親からも「まだ部屋もあるし、帰ってきたら?」なんて言われたけれど、親の反対を振り切って上京したのに、手ぶらで帰るのも嫌だったんですよ。だから、辞めようとは思わなかったかな。毎日、好きな音楽を聴いて不安を吹き飛ばしていました。

――当時を思い出す曲は?

なんでその曲? って感じですが、レッチリ(Red Hot Cili Peppers)の「Can’t Stop」です。“ダダンダダンダダンダダン…”というギターから始まるんですが、それはまるで私の入場曲。

――どこに入場するのでしょう。

撮影現場ならよかったんですが、それを聴きながら電車に乗り、バイト先に入場していました(笑)。

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――ターニングポイントとなった作品を教えてください。

映画『愚行録』(2017年公開)で、“ヨコハマ映画祭”で助演女優賞をいただいた時です。正直、賞とか自分に縁があるなんて思っていなくて、知らせを聞いた時は驚きました。でも今の私が認められ、私の芝居が評価されて賞をいただけたんだと思ったら、さらに腹が決まった。やっぱりこれ一本でいこう、って思いました。

――それは“やっと”でしたか?

やっとというよりは“ここから”って感じ。役者一本で、という気持ちは固まっていても、ふわふわしていて、ここからどうやってステップアップしていったらいいんだろうと、常に考えていました。ちなみに、『愚行録』でも殺されているんですけど(笑)。

――さすが、プロです(笑)。

あははは(笑)。もちろん、いい作品や監督、俳優さんたちに出会ってきた中での成長も感じていますが、ここ1~2年で、かつて死に役をしていた経験が生きているな、と思えるようになりました。

まつもと・わかな 1984年2月25日生まれ、鳥取県出身。2007年に『仮面ライダー電王』でデビュー。ドラマ『やんごとなき一族』『ミステリと言う勿れ』、Netflixの配信ドラマ『金魚妻』をはじめ、出演作多数。出演映画『マリッジカウンセラー』が9月16日、愛知県先行公開(全国順次公開)。

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IT企業に勤める、有能な派遣プログラマー・鈴木美月が、“密”と名前を変えて働くのは、夫・優吾が自殺した元職場。パワハラが止まらないブラック企業で、密は夫を追い詰めた人たちへの復讐を始めるのだった…。出演/松本若菜、平岡祐太、松尾諭、桐山漣、淵上泰史ほか 『復讐の未亡人』7月7日26:35~テレビ東京にて放送スタート。

※『anan』2022年7月13日号より。写真・杉江拓哉(TRON) スタイリスト・番場直美 ヘア&メイク・森野友香子 インタビュー、文・若山あや

(by anan編集部)