尾崎世界観の“歌詞集”が発売! 10年前の伏せ字「××××」も明らかに!?

2022.4.25
クリープハイプのフロントマンで、小説でも高い評価を得ている尾崎世界観さん。新刊『私語と』は、インディーズ時代から約20年間綴ってきた歌詞をまとめた“歌詞集”。

歌詞に関しては、自信を持って読み返せました。

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「4月18日がメジャーデビュー記念日なのですが、毎年ファンの方のツイートで『今年は何周年なんだ』と知るんです。さすがに10周年くらいはちゃんとしなきゃと思い、歌詞集を作ってみたいとお願いしました。音とセットになった歌詞を、一度客観視してそこから音を取り外し、言葉だけを本の中に入れたらどうなるか、すごく興味があったんです。テーマごとに分けようとも考えたんですけど、実際選んでみると、作り手としての感覚が邪魔になってしまい、最終的にはリリース順でまとめました」

一冊の本として読んでもらいたい。その想いがセレクトの基準に。

「音に寄っている歌詞は全部外しました。メロディを助けるために書いている言葉というものがあって、それは全然悪いことじゃないんですけど、本にした時に弱いと感じたんです。音がなくてもリズムのある歌詞を選ぼうと心掛けたら、必然的に小説を書き始めた後の歌詞が多くなりました。音のない中で文章を書くようになったことで、前ほど音に引っ張られなくなった歌詞は、縦書きにした時の印象もよかったです」

自作を読み返し、書き直したくはならなかったのだろうか。

「小説やエッセイは読み返すのがきつくて、すぐに書き直したくなります。でも、歌詞については自信を持って読み返せました。歌詞以外の作曲やアレンジ、小説やエッセイ、テレビでの立ち居振る舞いなどは常に足りていないので、もっと勉強しなければならないと思っているんですけど、歌詞に関してはこれで成立している、大丈夫だと思える。作詞という、とても大事なお守りのような表現を持っているので、テーマを出し尽くした、もう書けないと諦めそうになってもどうにか書き続けてこられたし、本にまとめたからといって区切りがついたわけでもないですね」

今回、帯と「はじめに」「おわりに」を歌詞として書き下ろした。「帯」では「(誰かの)帯だけで一冊作れるくらい書かせていただいた」という自分への皮肉がたっぷり。「はじめに」では、歌から言葉を切り離す作業を綴った。

「まず曲を作って、そこに言葉を流していくという順番が染みついていて、歌詞から書く作業は本当に時間がかかりました。音がないと際限なく言葉を選べるから、途方に暮れてしまう。『おわりに』は、まだ曲をつけている最中なんです……。作曲と作詞の順番を変えるとこんなにも難しいんだと改めて実感しました」

尾崎さんとananとの縁は約10年前に発表された「身も蓋もない水槽」が始まり。リリース時は「××××」だった部分を歌詞集では……

「『anan』にさせていただきました! 満員電車でギターを背負い、邪魔者扱いされている自分とはかけ離れた世界だと感じられた中吊り広告に、その怒りがぶつかってできた曲なんですけど。当時は雑誌名を書いたら怒られると思い、伏せ字にしたんです。この曲があるし、もう絶対に出してもらえないと思っていた『anan』に、定期的に出していただき、セックス特集でも原稿を書かせていただいて、もう伏せなくても大丈夫かなって(笑)」

言葉遊びをふんだんに取り入れる尾崎さんの作詞スタイルは、本作のタイトル『私語と』にも表れている。“私”を“語”る“仕事”ぶりを自身はどう感じているのだろう。

「あれもこれも、色んな仕事をしていて下品だと思います。ディスコグラフィーを見てもなんか汚いなあって(笑)。でも、そうしてブレるのが自分らしい。この10年で、そう思えるようになりましたね。自分を語ることが仕事になるなんて、すごく恵まれています。だから、極力すべてを語るのが、音とともに聴いてくれる方や本を読んでくれる方へのマナーだと思うんです」

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『私語と』 インディーズ時代を含む楽曲群から、75曲の歌詞を自身で選んだ。装丁は、共に仕事をしてきたデザイナーの寄藤文平さん。「自分にはここまでそぎ落とす勇気はないですね。さすが文平さん」 河出書房新社 1870円

おざき・せかいかん 1984年11月9日生まれ、東京都出身。2012年、クリープハイプとしてメジャーデビュー。’16年、小説『祐介』(文藝春秋)を発表。’21年、『母影』(新潮社)が芥川賞候補作に選出。現在、『セブンルール』(関西テレビ/フジテレビ系)に出演中。
ビンテージのシャツ¥8,800 Tシャツ¥3,800(共にFRONT11201 https://front11201.com/) ビンテージのスラックス¥18,700(放課後の思い出 https://houkago.thebase.in/) スニーカー¥9,900(CONVERSE/コンバースインフォメーションセンター TEL:0120・819・217) ベルトはスタイリスト私物

※『anan』2022年4月27日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・入山浩章 ヘア&メイク・谷本 彗 インタビュー、文・小泉咲子

(by anan編集部)