ポメラニアンに転生した男は、姪が結婚するまで守り切れるのか。
転生して意外な存在に生まれ変わる物語は、これまでにも多くのフィクションで描かれてきた王道設定のひとつ。とはいえ、ハマサキさんの『犬、バージンロードを歩く』はひと味違う。
生前は超ワンマンで感情に欠けた桜二郎だったが、亡くなった姉の椿の夢だった「娘の花嫁姿を見たい」という願いを代わって叶えるべく、犬の姿のまま姪のことりを見守ることを決意。そんな桜二郎もことりと一緒にいることで、人間として成長していくさまに揺さぶられる。
「守るより守られる方が似合っているポメラニアンにしたのは、非力な愛玩犬だけどがんばるという懸命さや工夫が際立つと思ったからです。犬なのでできることにも限りがあるけれど、犬なのに人間みたいなふるまいをするギャップや、人間の感情を敏感に察知できる犬ならではの才能が魅力かと。そういう点をうまく見せられるように工夫しました」
まず引きつけられるのは、ほわほわした見た目といい、ちょっと間抜けな生態といい、ぼんじりが備えている愛らしさ。
「犬はしっぽや全身の動きでも感情表現できるのがいいですね。毛のある動物の描き方でいまでもよく覚えているのが、三鷹の森ジブリ美術館に行ったときに見た、宮崎駿先生によるトトロの描き方のコツの展示です。1本の線でベタに描かないで、ところどころペンの隙間を空けたり、毛をちょんちょんと出したりするといいと。動物を描くときは、そのアドバイスをいつも意識しています」
そんなぼんじりは、さりげなくことりに寄り添う。ことりもまた、その無垢な存在感に癒されている。
「大好きな母を亡くすなどつらい体験をしている分、ふつうの子どもよりは大人びた考えを持っていますよね。その反動で、唯一ぼんじりの前ではついいたいけな本音も出てしまう。マンガとしてはとてもいいキャラクターだと思って描いています」
桜二郎とぼんじりの出合いや、桜二郎から引き継いでことりを養育している、桜二郎といとこ・梅子との関係、梅子と母親の確執など、2巻以降は、登場人物たちそれぞれのバックボーンや関係性がさらに深掘りされ、明かされていくそう。
その前に、1巻のラストでは、見逃せない仰天の出来事が! ぜひ読んで、確かめてみて。
ハマサキ『犬、バージンロードを歩く』1 守る守られるの関係を通して、少しずつ家族になっていくポメラニアンに転生した叔父と気丈な姪との絆が◎。コマの隅っこに入っているギャグも冴えている。芳文社 682円。©ハマサキ/芳文社
ハマサキ マンガ家。1992年、山口県生まれ。2020年、商業誌デビュー。初連載の本作はコミックトレイルで、「根津さんの恩返し」をコミックブリーゼで連載中。
※『anan』2021年10月13日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)