むき出しのリアルが持つ、圧倒的な強さ。
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圡方さんは、小劇場で公開された作品がロングランになるなど、ドキュメンタリーに注目が集まっているのを肌で感じているそう。
「テレビも含めてNetflixなど配信も加わり、映像作品が豊富にある中で、今エンタメは二極化しているように思います。膨大な制作費をかけて世界観を作り込んだ没入感のある作品か、反対にむき出しのリアリティで作るものか。『事実は小説よりも奇なり』といいますが、台本があってお決まりの展開で進んでいくものに視聴者が満足できなくなってきていて、実際に起きていることをもとにしたドキュメンタリーに、多くの人が惹きつけられているのではないでしょうか」
作り物ではないリアリティだからこそ心を動かされるのであり、それこそがドキュメンタリーの神髄と、こがけんさんも話す。
「僕が度肝を抜かれた最初のドキュメンタリー作品は『モハメド・アリかけがえのない日々』。リングの中で闘い、外でも社会と闘っているアリがとにかくかっこよくて。こんな人間がリアルに生きていたんだと思うだけで“オーマイガー!”です。ドキュメンタリーが映す世界は、時間や場所は違えど、自分が生きている現実の延長線で起きていること。そこに強いパンチ力と説得力がある」
だからこそ、「想像していないことばかり起きる現実を、どう編集していくかに監督の手腕が出るのが見どころ」と続けます。
「フィクションの映画は監督という神様がいて、すべてコントロールしますが、ドキュメンタリーは作り手が想定すらできない無秩序な世界。『FAKE』という佐村河内守さんに密着した作品では、最後の12分、監督・森達也さんの手から離れて、すごい展開になるんですよ。コントロール不能に陥った感じがまた面白いんです」
また圡方さんも、最近は表現方法が多様になっていると語る。
「従来のドキュメンタリー作品は勉強的要素が強く、比較的それがイデオロギーとくっつきやすかった。しかし、机上の空論を超えてくる現実に対して、最近は作り手も肩の力を抜いて、自分の立場を明確にせず、“視聴者にも考えてほしい”と答えを決めないまま提示してみたり、エンタメ性の高い作品も増えています。話が想像もしないほうに曲がっていく『イカロス』のような作品も出てくる。良質なドキュメンタリーとは“長時間の記録の中にドラマが浮き出てきたもの”だと思います。そこには明確な答えがあるわけでもないため、見た後にスッキリしないこともあると思うのですが、それはそれで楽しめばいい。最近では、ある議員に17年にわたって密着した『なぜ君は総理大臣になれないのか』も、政治ジャンルに括れないドキュメンタリーとして話題になりました」
また、そんなドキュメンタリーを見る意義は“他者を知ること”だと続ける。
「撮り手として大切にしたいのは、普通に生活している中では見られない人・場所に焦点を当てること。そこには、例えばヤクザのような一般的には理解しがたい、“異端”も含まれます。今は何でもラベルを貼って分類したがるけど、絶対にわかり合えないと思う人にも自分と重なる部分はあると知るだけで、分断された世界が繋がっているものだと示せるのではないでしょうか」
一方、こがけんさんも作品から多くを学んでいるという。
「忘れてはならないのは“カメラが写していない現実もある”ということ。だから、すべてを鵜呑みにせず、その前後を調べたり、裏を取る作業はしたほうがいい。これは、情報が溢れる今の時代にとても大切なこと。ドキュメンタリーに触れることで、その力が養われるのではないでしょうか」
白か黒か、二者択一では決められないことはたくさんある。ドキュメンタリーは私たちに、他者を理解する大切さや、真実が曖昧なものであるというメッセージをも伝えてくれているのである。
二人がすすめる必見作品
『モハメド・アリ かけがえのない日々』
数多くの逸話を残すボクサー、モハメド・アリの生涯を、“キンシャサの奇跡”と呼ばれたタイトルマッチの映像を基軸に辿る。第69回アカデミー長編ドキュメンタリー賞。1996年/DVDは現在廃版。
『FAKE』
「現代のベートーベン」とまで称賛された佐村河内守氏。2014年に「ゴーストライター問題」で世間を騒がせて以降、約1年半にわたって自宅で彼を密着し続けた問題作。2016年/各種レンタル配信中。
『イカロス』
ドーピングについて探るべく、アマチュア自転車レーサーであるブライアン・フォーゲル監督が自身を実験台にカメラを回し始めると、話はまさかの方向へ…。2017年/Netflix 独占配信中。
『なぜ君は総理大臣になれないのか』
大島新監督による最新作。衆議院議員・小川淳也氏を17年にわたって追い、高い志を持って政界に入るも、民主党解党などに翻弄される姿を描く。2020年/Netflixほか各種レンタル配信中。
ひじかた・こうじ 1976年生まれ。東海テレビ勤務。情報番組やバラエティ番組のディレクターを経験後、報道部に異動。『ヤクザと憲法』『さよならテレビ』など監督作の劇場公開が続き、注目を集めている。
こがけん 1979年生まれ。お笑い芸人。おいでやす小田とユニットを組み、「おいでやすこが」としても活動。年間100本以上の映画を観る映画好き芸人としても有名で、トークライブ「こがけんシネマクラブ」を度々開催。
※『anan』2021年9月15日号より。取材、文・浦本真梨子
(by anan編集部)