俳優が自身の役に没入できるよう衣裳でサポート。
ミュージカル『オペラ座の怪人』が日本に上陸して30年以上。長く愛され、何度もロングランされている作品だけに、衣裳も丁寧なメンテナンスが必須とされる。
「主役の怪人のマントは初演時のものが今も使われています。俳優が大切に扱ってくれているおかげもありますが、重要なのは日々のメンテナンス。クリーニングは月に2回専門業者に依頼。男性のワイシャツなどは、俳優にも手伝ってもらいながら終演後に劇場の洗濯機で洗っています」
ドレスの装飾のビーズが一つ取れただけでも、舞台の機構に挟まり故障や事故に繋がる可能性が。そのため公演の前後の時間はつねに補強や修繕に充てているそう。また本番中、常時舞台袖にスタンバイし、俳優の早替えの手伝いを行うのも衣裳さんのお仕事。
「畳み方にも着替えやすい工夫があります。ドレスはドーナツ型に畳んでおき、中心に俳優が入るだけで着られるようになっていたり。大人数が同時に着替える場面では、俳優同士で着せつけてもらう場合も。着替えの段取りを覚えてもらうよう、開幕前に早替え稽古というのもしています」
当然、傷めば新調することも。
「新調する時は、デザインを変えず今までより高いクオリティのものを目指しています。俳優が芝居により集中できるよう、スカートに入っている針金をカーボンに替え軽量化したり、裏地を通気性のあるメッシュ素材にしたり。ただ、重量感が出ないと見た目が安っぽくなることもあるので、そのバランス感が重要なんですが」
本作の衣裳チーフに就いてから、あらためて19世紀のヨーロッパの服飾史を学んだという村上さん。
「調べると、いかに史実に忠実なデザインかわかります。とくにカルロッタ(オペラ座のプリマドンナ)には当時の最新ファッションが取り入れられている。そこに彼女のプライドの高さやおしゃれに敏感な性格が表れているんです」
今の仕事に就いたのは、幼い頃の観劇体験が根底にある。
「過去の自分のように、私も新たな一歩を踏み出す誰かの手助けになれていたらいいなと思います」
ロングラン公演に対応できるよう、劇団四季ならではの工夫も。
ロングラン公演を行っているため、劇団四季では一つの役を複数の俳優が演じている。そのため、一つの衣裳を複数キャストが着回せるよう複数のホックを付け、いろんな体型に対応。写真のピンクとブルーのドレスは、「マスカレード」の場面のクリスティーヌのもの。衣裳部屋にあるミシンは必ず糸がかけてあり、不測の事態が起きた時すぐに縫えるようにしている。
【本番!】
写真・荒井 健
作品で使用される衣裳の数々。なかには重さが約7kgもあるドレスも。
衣裳デザイン画。日本初演時、この絵を元に衣裳が製作された。
衣裳部屋は床山部屋の並び。
劇団四季 ミュージカル『オペラ座の怪人』
19世紀半ばのパリ。オペラ座に隠れ住む怪人(=ファントム)と、彼がその才能を見初めた歌姫クリスティーヌをめぐる壮大なラブストーリー。現在、清水建設ミュージカルシアター JR東日本四季劇場[秋]にて上演中。2022年1月10日千秋楽。https://www.shiki.jp/
写真・阿部章仁
村上佳穗さん 劇団四季 舞台美術部 衣裳所属『オペラ座の怪人』衣裳チーフ。幼い頃に舞台衣裳の仕事に憧れ、服飾の学校へ進学。在学中から小劇場の衣裳を手がけ、卒業後に専門学校を経て現職。入団8年目。
※『anan』2021年8月11日‐18日合併号より。写真・小笠原真紀 取材、文・望月リサ
(by anan編集部)