主人公が楽しく籠もる素敵な部屋は、どう作られる?
監督&スタイリストが語ります!
大九:’07年の『恋するマドリ』という映画は、タイトルからも分かるように、インテリアが重要な意味を持つ作品だったんです。そのときにプロデューサーが、“その道の第一人者がいる!”と推薦してくれたのが、作原さんでした。ご一緒してみたら、本当に素敵な部屋を作ってくれて…。作原さんの作る部屋は、私の知らない世界を見せてくれ、その上嘘がない。今作も、前作同様、主人公の部屋が重要だったので、ぜひお願いしたいと思い、ご連絡したんです。
作原:前作は私にとって初の映画の現場で、分からないことだらけ。とにかく邪魔になっちゃいけないと、それだけを考えていました(笑)。映画の現場は、専門分野の方々が力を合わせて一つの作品を作り上げる一体感があって、濃くて、とても素敵な現場でした。今回お声がけをいただき、“またご迷惑をかけるのでは”と悩みつつ、お力になれるなら…と、参加することを決めました。
――登場人物が暮らす部屋は、どういうところから想像するんですか?
大九:私からは、具体的なリクエストはしません。1つだけ伝えたのは、“みつ子の部屋は、彼女が不動産屋で見つけた物件に、彼女が探し、選び、触ったものが並んでいる空間である”ということ。作原さんの素敵なスタイリングに、登場人物のフィルターを1枚かけて、空間を作ってほしい、ということです。
作原:1日、監督にみつ子ちゃんのことを取材する日を作りましたよね。「コーヒーと紅茶だったら、どっちが好きなイメージですか?」とか、「部屋に花を毎日飾る人でしょうか?」とか。そういうところをヒントに、アイテムを探しました。
大九:主人公のみつ子は30歳になるという恐怖を乗り越え、いろんなことを受け入れ、同時に諦め、一人で日常に喜びを見つけながら楽しく暮らしている女の子。大人の女性のかわいらしさを、本当に作原さんは素敵に表現してくれて。私はあまりいろいろ決め込まず、現場で見たものを活かして撮影をしていくタイプなのですが、今回は作原さんが用意してくれた雑貨からも、たくさんヒントをもらいましたよ。「あ、この雑貨があるなら、こういうセリフを言わせたら楽しいかな」とか…。
作原:それには本当に驚かされました。インテリアアイテムが物語に取り入れられていくんです。例えば鳥のオブジェとか、フレグランスの小物とか…。どう使われたかは、ぜひ映画を観て確認してください(笑)。
――コロナ禍での撮影で、当初ローマロケを予定していたシーンも、日本で撮ったと伺いましたが…。
大九:そうなんです。でもそのシーンも、作原さんの力で、みつ子と観客のみなさんを、皐月(橋本愛)が住むローマに無事お連れすることができたのでは、と思っています。
作原:普段の仕事で、イタリアのメーカーさんとやりとりしていたことがまさかここで役立つとは(笑)。そんな経験も含めてですが、映画は本当にいろんな人の思いで出来上がるものなんだと、今回もまた実感しました。やらせていただいてよかった。
大九:ぜひまたご一緒しましょう!
作原:ありがとうございます!
こちらが対談の中でも出てきた、ストーリーに加わったフレグランスアイテム。“玄関までしか来ない男”多田くんへの、みつ子の思いを感じさせる使い方に、思わずきゅん。
部屋でくつろぐみつ子。ちょっとしたインテリアアイテムに作原さんのセンスが光る!
おおく・あきこ(右) 映画監督。2007年、長編映画監督デビュー。'17年、『勝手にふるえてろ』で第30回東京国際映画祭コンペティション部門・観客賞などを受賞。
さくはら・ふみこ(左) インテリアスタイリスト。岩立通子氏に師事し、1996年に独立。雑誌やカタログ、TV-CM、イベント、ショップディスプレイと、幅広く活躍中。
『私をくいとめて』 監督・脚本/大九明子 出演/のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、前野朋哉、山田真歩、片桐はいり、橋本愛 原作/綿矢りさ『私をくいとめて』(朝日文庫) 今年の東京国際映画祭で観客賞を受賞。12月18日より公開。©2020「私をくいとめて」 製作委員会
※『anan』2020年12月23日号より。写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・尾原小織(大九監督)
(by anan編集部)