動物のレプリカ工場で働く主人公が残業中に、絶滅したはずのシロクマを目撃、その正体を追うデビュー作『レプリカたちの夜』。エリートとして温存されすぎ、73歳でデビューしたスパイの市長暗殺の行方を見守る『ざんねんなスパイ』。現実と二重写しになるような架空の世界を舞台にした長編を発表してきた一條次郎さん。
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『動物たちのまーまー』は、またも「よくまあこんなぶっ飛んだ物語を思いつくな」と感心しながら笑いが止まらない初の短編集だ。

「私はプロットを練りあげ、設計図に従って作業をしていくタイプではなくて。小さな着想の、その世界に暮らす人物や動物になってみて、その様子や日常がどんなものなのかを実際に感じられないと書けないんです。また、登場人物たち全員の声がちゃんと聞こえてこない限り、そのお話はいかにも作り話っぽくなってしまい、自分でも好きになれません。短編にしろ長編にしろ、毎回そういうところから延々と考えるので、ずいぶん時間がかかる気もします」

奇想や諧謔、言葉遊びのセンスは一條さんの十八番。そんな趣向に富んだ7編の中で、ご本人が特に気に入っているのは、「ヘルメット・オブ・アイアン」。芥川龍之介の『杜子春』の主人公のようにうまいことやってやろうともくろむ〈おれ〉が、仙人の鉄冠子(てっかんし)と出会って…。

「そもそも、この現実世界はわからないことだらけだと私はいつも感じています。ずっと前から現実と非現実との関係をあれこれ考えていて、書いてみたその結果のひとつとして、こういう形になりました。ロシアのヴィクトル・ペレーヴィンという作家がそういった主題の作品をたくさん書いているのですが、読者としてとても波長が合います。そのせいか、作中のタクシー運転手の名前が、ヴィクトルになってしまいました」

一見不条理な世界も、一條さんにとっては「自分にとって自然なものを自然に書いている」だけらしい。

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「もしかしたら世間のみんなは、この現実世界のことをちゃんとわかっているのかもしれない、わからないのは自分だけなのかもしれないとも思ったりもします。だとしても、自分にもどうしようもありません。病院へいってもだめかもしれません」

テノリネコ、ネコビト、吸血鬼…。彼らに翻弄される世界は楽しい。

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いちじょう・じろう 作家。1974年生まれ。2015年、新潮ミステリー大賞受賞作『レプリカたちの夜』でデビュー。絶賛された一方で「これはミステリーなのか」と物議を醸したという伝説も。

『動物たちのまーまー』 カバー装画は木原未沙紀。「写実的なタッチと非現実が合わさった絵。幻想的な空気がありありと感じられてすごい」と著者もお気に入りとか。新潮文庫 630円

※『anan』2020年6月3日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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