自分の出演作を観て、こんなに泣いたのは初めてでした。
「中川監督とは3年前に一度お会いする機会があって、その時からずっと“松本さんで作品を撮りたい”とおっしゃっていただいていたんです。でもこれまで、なかなかタイミングが合わなかったので、“やっとできますね”という思いでした」
松本さんが演じるのは、育ての親である祖母の入院を機に上京することになった20歳の宮川澪。都会の中で戸惑いながらも自分の居場所を見つけ、前へ進もうとする澪の姿が丁寧に描かれている。
「台本を読んだ時から、きっと澪は監督が思う私のイメージに近い人なんだろうなと思ったんです。監督からお話があったのも、“ただ風景の中にいる人を撮りたい”ということだけ。なので今回は、あえて役を作り込まないよう意識していました」
それは松本さん自身、澪に共感できる部分も多かったから。
「澪はなかなかやりたいことが見つからなくて、バイトもすぐに辞めてしまうような女の子。でも私自身もこの女優という仕事に出合うまで、イヤだなと思うことをすぐに放り出して、自分は本当にダメな人間だなと落ち込んでしまう時期があったんです。そんなふうに澪は、確実に私の中にもあった時間なので、演じるにあたって役の解釈に対する不安はありませんでした。最初から澪という人の芯のようなものを持って現場に入れていたと思います」
失敗を経験しながらもさまざまな出会いを通し、確実に成長していく澪。しかし、ある日突然、澪がやっと見つけた自分の居場所までもが区画整理でなくなることを聞かされる。
「そんな時に澪が思い出す“形があるものはいつか消えてしまうけど、言葉はずっと残るから”というおばあちゃんのセリフがとても印象的で。街がなくなっても、思い出や過ごした時間が消えるわけじゃないし、そこからまた始まるものがあるということを私自身も教えられました」
完成した作品を初めて観た時は、涙が止まらなかったそう。
「自分が出ている作品を観て、ここまで泣いたのは初めての経験。それくらい温かかったし、全てを受け入れていく強さのようなものを感じました。単純に“あぁ、好きだなぁ”と思えた映画でもあって、そんな作品に自分が携われたことが嬉しくて。音楽も景色も素敵で、本当にずっと泣いていたかもしれません(笑)。とにかく、いろんな人に観てもらいたいという気持ちでいっぱいです」
なかでも、「澪と同世代の女性に観てもらいたい」と松本さんは言う。
「この映画は大きな事件が起こるような波のある作品ではありません。でも、自分の居場所や、やりたいことが見つからないのは、決してダメな人間だからではなくて、ただ見つかっていないだけ。誰にでも居場所はあるし、そこで生き抜いていく強さや大切なものを守りたいという思いは誰にでも備わっている、ということを教えてくれる映画だと思います。澪のようにくすぶっている人にこそ、ぜひ観ていただけたら」
『わたしは光をにぎっている』 都会に馴染めないでいた澪(松本)は、祖母の「目の前のできることから、ひとつずつ」という言葉を機に、東京での暮らしに喜びを見出し始める。監督・脚本/中川龍太郎 出演/松本穂香、渡辺大知、徳永えりほか 11月15日(金)より全国公開。©2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
まつもと・ほのか 1997年2月5日生まれ、大阪府出身。女優。さまざまな映画やドラマで活躍。'20年の公開待機作に『酔うと化け物になる父がつらい』『his』『みをつくし料理帖』などがある。
※『anan』2019年11月20日号より。写真・岡本 俊(まきうらオフィス) スタイリスト・尾口佳奈(コール) ヘア&メイク・李 靖華 インタビュー、文・菅野綾子
(by anan編集部)
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