2018年のベストセラーのキーワードのひとつが、人工知能であるAI。今やAIが台頭する社会は仮想ではなくなり、生活に及ぼす影響や共生の道を示した本が反響を呼んだ。また、多様性社会や時代の変革期にあって、従来の価値観にとらわれない生き方を見せる著者や、「どう生きるか」を説いた普遍的な作品、「教養」関連の本もブームに。小説やエッセイでは、いじめ、孤独、心の闇といった、閉塞感のある時代を反映しつつ、その中に希望を見出せる作品がヒットした。
新時代を生きるヒント:葛藤や苦しみが成長と前進の糧となる。
『漫画 君たちはどう生きるか』原作 吉野源三郎 漫画 羽賀翔一 売り上げ:210万部
1937年に出版された教養小説を初めて漫画化。原作と同様に、生きる意味をわかりやすく深く説きながら、読者に考えを促す仕立てに。「長年読み継がれる名著がコミックになったことで、読んでみよう、もう一度読み返そうと、幅広い世代が手に取りました。親子で読みたい、孫に贈りたいという方が多かったのもこの作品ならではです。“どう生きるか”という永遠のテーマを、あらためて見つめるきっかけになります」(丸善・丸の内本店・高頭佐和子さん)
マガジンハウス 1300円
新時代を生きるヒント:読解力を磨けば人間はAIに負けない。
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』新井紀子 売り上げ:25万部
著者は東大合格を目指すAI「東ロボくん」の開発者であり気鋭の数学者。研究と調査から見えてきたAIの可能性と限界、そして人間の現状とは。「〈人工知能はすでにMARCH合格レベル〉という帯と、AIも現代の中高生も読解力が低いという序文が衝撃だったのでは。親しみやすい文章で読みやすく書かれている点もヒットの要因。類書もよく売れ、AIへの関心の高さが窺えました」(高頭さん)
東洋経済新報社 1500円
新時代を生きるヒント:誰もが揺れながら生きていることを知る。
『かがみの孤城』辻村深月 売り上げ:55万部
学校で居場所をなくした中学生のこころが、鏡の中の世界で出会ったのは、自分と似た境遇の7人だった。生きづらさを感じるすべての人をやさしく照らす物語。2018年本屋大賞受賞作。「いま最も書店員に愛されている辻村深月が満を持して送り出した一冊がヒットしないはずがありません。本屋大賞作品は年々注目度を増しているうえ、不登校やいじめというテーマ性でも若い女性や学生の心をつかみました」(三省堂書店・内田剛さん)
ポプラ社 1800円
新時代を生きるヒント:未来を悲観しない。おもしろがる。
『10年後の仕事図鑑』堀江貴文、落合陽一 売り上げ:24万部
多彩な肩書を持つふたりが、AIの普及で変わる社会のありよう、46の職業の未来、お金の価値の変容など、新時代をサバイブする戦略を提示する。「広い見識を持った堀江貴文氏と落合陽一氏の目に未来の仕事はどう映るのか。その興味と、『AIに仕事を奪われるかもしれない』という先行き不透明な世相にマッチしたことがヒットの理由といえそうです。就活生やビジネスマンによく売れています」(紀伊國屋書店・吉野裕司さん)
SBクリエイティブ 1400円
丸善・丸の内本店・高頭佐和子さん 丸の内本店で文芸書を担当。読者に読んでほしい本は『これからの私をつくる29の美しいこと』(光野桃著 講談社)。おすすめの作家は中山可穂。
三省堂書店・内田 剛さん 有楽町店で文芸書、文庫を担当。吉田修一や薬丸岳ら同世代作家を熱烈に支持。通を唸らせビギナーを立ち止まらせる棚作りを目指している。
紀伊國屋書店・吉野裕司さん 新宿本店で文庫、新書を担当。司馬遼太郎が好き。読者に読んでほしい本は『仕事にしばられない生き方』(ヤマザキマリ著 小学館新書)。
※『anan』2019年1月2・9日号より。写真・中島慶子 取材、文・熊坂麻美
(by anan編集部)
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