若いというのは、必ずしもいいことばかりなんかじゃない。自分がその“季節”を生きている最中は、わかりきっていたはずのことなのに…。紀伊カンナさんのマンガ『魔法が使えなくても』は連作形式の群像劇なのだが、そこに出てくる若者はかつての、あるいは今の私たちの姿だったりもする。
魔法が使えなくても

たとえば「辞めたい」が口癖で、なおかつ失踪癖のあるアニメーターの岸くん。仕事はクールにこなすものの、心ここにあらずといった感じの千代ちゃん。バンドマンとして夢を叶えつつあるように見える、たまき。地下アイドルに魅せられるキキちゃん。社会に漕ぎ出した彼らは、オールの使い方もわからず、夢と現実の折り合いを思案している。

「仕事も恋も元気にバリバリやる! 的なものも楽しいけど、自分が描くならもっと違うアプローチをしてみよう、そのほうが今を生きてる人に沿っているような気がしたんです。ハツラツと過ごす人の一方で、こんなはずじゃあ…と日々をしょんぼり過ごしてしまうような、そんな人たちに向けて描こうとしているところはあります」

別物だと思っていた物語が思いがけずつながったり、登場人物がニアミスしたりするのが連作短編の面白さといえるが、そういう意味で本作はさりげない部分から、「こうきたか!」と唸ってしまうものまで、しかけがたっぷり。ときに物語の見え方がガラリと変わったりもするのだが、これもまさに周到に練られた短編を読む醍醐味といえるだろう。

「私はマンガで特に何かを伝えたいとは思っていなくて、基本的に読む人が何かを感じて考えてもらえたらのスタンスでやっています。ただ、筆が遅くて作品ごとの間が空いてしまうタイプなので、そのぶん一冊を繰り返しじっくり読んでもらえるような構成や画面を目指せればと思っています」

やりたいこととできること、そしてやるべきことの間でもがき、かけがえのない日々を生きる若者たち。カッコ悪さも眩しく見えてしまうのは、やっぱり若さのなせるワザかも。

魔法が使えなくても

『魔法が使えなくても』 ガツガツせず自然体で生きようとする若者を、仕事や夢を軸に切り取った6つの連作短編。今にも音楽が鳴りだしそうな、ポップで躍動感のある絵柄も注目。祥伝社 1000円 ©紀伊カンナ/祥伝社フィールコミックス

きい・かんな マンガ家。沖縄の離島を舞台にした、心が洗われるようなBL『海辺のエトランゼ』でデビュー。続編『春風のエトランゼ』(既刊3巻)も人気。本作は初の一般誌での作品。

※『anan』2018年9月19日号より。写真・大嶋千尋(本) インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)


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