
幼い頃から「お金を使うのが苦手だった」という歌人の上坂あゆ美さん。そんなお金との距離感は大人になった今も変わらず、娯楽消費とは縁遠い生活を送っている。しかし、それは倹約ともまた違い、お金に関する独自の指針がある様子。上坂さんが考える、自分軸でのお金との付き合い方とは?
Index
Profile
上坂あゆみ
うえさか・あゆみ 1991年、静岡県生まれ。6月17日に新刊『会社ではおならをしてはいけません』(双葉社)が発売。近著に『地球と書いて〈ほし〉って読むな』(文藝春秋)など。ポッドキャスト番組『私より先に丁寧に暮らすな』が配信中。
Money History
6歳 ゲームセンターの楽しみ方がわからず困惑
22歳 新卒でPR会社に入社
29歳 樹木希林さんに憧れ、不動産を購入
31歳 脱サラし、フリーランスに
35歳 意識的にお金を使い始める
お金は世界が良くなることに使う
── 上坂さんのお金に対する価値観には、どのような経験が影響しているのでしょう?まずは、子どもの頃のお小遣いの使い道を教えてください。
お小遣いをすごく慎重に使う子どもでした。例えば親戚のおじさんが、いとこと姉と私の3人をゲームセンターに連れていってくれた時。おじさんは「これで遊んできなさい」みたいな感じで全員に200円ほど渡してくれて、いとこと姉は大喜びでゲームをしていました。だけど私は、ぬいぐるみ別にいらないし、ここのゲームで勝てたとしても何も残らないじゃん、ここで使うくらいなら古本屋で本を買いたい。そう思いましたが、ポケットに200円を入れようとした私におじさんが引いてしまったので、仕方なくゲームをやった記憶があります。
── 社会人になってからは、いかがですか?大学卒業後、会社勤めをされていたそうですが、お小遣いと自分で稼いだお金では、その使い方や価値観に何か変化はありましたか?
とくに変わらず、娯楽消費は苦手なままでした。外資系広告代理店で働いていた当時、麻布競馬場さんの『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』という小説が話題になっていて、そのなかに広告とかマスコミ業界の人がけっこう出てくるんですけど、みんな毎日パーティとかして派手にお金を使っている。自分と似たような仕事と年収で、こんなにお金を使う人がいるのかな。でも、フィクションだから脚色なのでは、と思って同業の友だちに小説の感想を話したら、どうにも話がかみ合わない。その時、ある程度の収入があれば娯楽消費するのが普通で、10円でも安いスーパーに行く私のほうが特殊なんだと気づいたんです。
── ご自身では、なぜそこまでお金を使うことに興味がないのだと思いますか?
あまり裕福ではない家で育ったことと、大嫌いな父親がギャンブル依存症で、そうはなりたくない気持ちが強かったかもしれません。あと、これは家庭環境と関係ありませんが、私が超リアリストだからだと思います。“かわいい”だけでモノを買わないし、ロマンにお金を使わない。自宅に猫がいるので、あまり旅行もしていなくて。金額を気にせず買うのは、本と漫画くらいです。
── そんななか、29歳でマンションを購入されたそうですね。
俳優の樹木希林さんの「不動産を持っていると、自由に仕事ができる」という発言を目にしたことがきっかけでした。あと、同じ会社の同年代の子がマンションを買っていたり、40代後半くらいの先輩が、「家を買うなら早いほうがいいよ」と言っていたりしたのも後押しに。結果、住み替えたくなる可能性も考慮して、いざとなったら買い手がつきやすいような条件のマンションを、35年ローンで購入しました。
── 若い年齢での購入ですが、この先ローンを返していけるだろうか、といった不安はありませんでしたか?
あまりなかったですね。賃貸でも家賃を払わなければいけないので、いずれにしても家に住むにはお金がかかります。家賃の場合、そのお金は消えてなくなりますが、ローンは持ち家という財産に対する返済です。しかも、それが将来的に自分のものになるのだから、どう考えても買ったほうがいい。貧乏性ゆえに、無駄なことは避けたい(笑)。
── その後、31歳で退職し、歌人の活動を本格化。フリーランスとなりますが、ローンの返済もあるなか思い切った決断ですね。
もともとお金を使わない性質ですし、貯金もあったので、もし一銭も稼げなくても1〜2年ならなんとかなるだろうと。それに、その時はコロナ禍で、早期リタイア制度をいろんな会社が導入し出したタイミング。私もそれを利用して、まとまった金額をもらいました。だから、このお金がある程度尽きるまではフラフラしていればいいやと思えたし、もしも全然稼げなかったらまた会社員に戻ろうと。脱サラの方法としては、わりとリスクの少ないやり方だったんじゃないかと思っています。
── フリーランスだと、会社員とは違って、毎月の収入が一定ではありませんよね。家計の管理はどのようにしていますか?
あんまりしていないです。本当にお金を使わないので、メイン口座の残高が減りすぎていないかをざっくり見るくらいで。ごめんなさい、お金の特集なのに私の話、参考になりませんよね(汗)。
── いえいえ。ちなみに、使っていないお金を、投資に回したりはしていないですか?
フリーランスという自分の立場を考えると、投資でお金を増やして、老後資金など将来のために備えておいたほうがいいと思うんです。でも、今はまだ定期預金すらしていない…。というのも、私は仕事が好きなので、大事故とかに遭わない限り、老後もずっと働いているだろうという根拠のない自信があります。そもそも今は日本も世界も、老後どころか1年先もどうなっているかわからないような社会情勢です。そんななか、10年、20年先のことまで不安に思っていては心がもたない。先々を憂いても仕方ないとある程度は思ったほうが、メンタルを健全に保てる気がします。
── 老後資金に不安がある人は多いと思いますが、確かにそこに囚われすぎると、精神的な負担になってしまいそうですね。
お金との付き合い方は、ストレスフリーであることが大切なのかなと思います。私の場合は、浪費にストレスを感じるので、これまで極力使わずにいました。ただ、あまりにも使わなすぎて、最近、私は心が貧しいのではと思うようになってきて…。私は子どももいませんし、このまま貯め込んでいても仕方がない。とはいえ、無駄遣いはストレスが溜まるだけ。だから今、お金を良い形で使うトレーニングをしているんです。
── お金を良い形で使う、とはどういったことでしょうか?
例えば、ちゃんと吟味して洋服を買うこと。洋服って、すごく知識が必要じゃないですか。何と何を組み合わせたらいいのかわからず、そういうことを考えるのが面倒くさいってずっと思っていたんです。でも、吟味して買った洋服を着ると、すごく気持ちが明るくなって…。そんな喜びに気づきました。あとは、寄付にもお金を使っています。自分が10代の頃にすごくしんどい思いをしたことが今の活動の根底にあるので、おもに青少年の支援をしている団体に。そのほか、「1500円のサラダボウルを食べる」とか、自分がやったことのない体験に、お金を使うということもやっていきたいと思っています。
── お金を使うトレーニングのなかには、社会への還元も含まれているんですね。
子育てをがんばっている方がいる一方で、子どもがいない私ができることは、世界をちょっとでも良くすることなのかなと。自宅では再生エネルギーの電力を使用していますが、それもその一つです。少し割高ではありますが、世界を良くすることに貢献できるなら、安いと思えるほど。ケチなりの美学があるんです(笑)。マンションの購入もそうでしたが、自分にとって意義があると思うものには、たとえ大きな出費でも厭わない。お金の使いどころは、社会圧よりも“自分軸”で決めることを大切にしています」
「お金を使うトレーニング」に挑戦中

世界に一つだけ、オーダーメイドの特別な一着
僧侶の鵜飼ヨシキさんと配信しているポッドキャスト番組『私より先に丁寧に暮らすな』のイベント用に衣装を製作。『SINA SUIEN』の有本ゆみこさんにオーダー。

母の誕生日に一緒に屋形船に乗ってみる
働き手が母親1人となり、お金に苦労した大学時代。今は上坂さんが稼いだお金で母親孝行することも。ほかにも、スカイダイビングや滝行などさまざまな体験を検討中。

1500円のサラダボウルを実食。おいしかった!
「この金額を出すなら、青果店に行って自分でサラダを作ったほうがいい」という考えを改め、トライ。流行を冷笑で終わらせるのではなく、体験してわかる良さもある。
上坂さんのお金の3か条
お金とストレスフリーな付き合い方をする
老後のお金の確保も大切だけれど、あまり先のことを憂いていると、心の健康が損なわれてしまう。「ペシミストだからこそ、いったん心配事から撤退する。お金とはストレスフリーな付き合い方を心がけています」
世界が良くなることにお金を使う
青少年の活動支援を行っているNPO団体や、紛争地帯の人道支援などに寄付を行っている。自宅の電力は、再生エネルギーの電力会社を選択。また、「軍事侵攻に加担している企業の商品は極力買わないようにしています」。
同調圧力買いはせず、自分軸を大切に
上坂さんは、“みんな買っているから”といった同調圧力ではなく、自分のこだわりに従うことが、お金の正しい使い方だと考える。「たとえそれが“普通”と違っても、何も恥ずかしいことはない。そう気づいたんです」
anan 2498号(2026年6月3日発売)より






























