
セネガル人の父と日本人の母を持ち、日本で生まれ育った伊藤亜和さん。誤解や偏見と幼少期から向き合ってきた彼女が感じる、相手の本質を見極めることの大切さとは?
Index
Awa’s History
1996年 横浜市で日本人の母とセネガル人の父の間に生まれる
2009年 両親が離婚
2015年 大学1年生のときに父と絶縁
2022年 noteに投稿された「パパと私」というエッセイが注目を集める
2024年 初エッセイ集『存在の耐えられない愛おしさ』を出版
2025年 結婚
一人ひとりを初めましての人だと認知していかなければ
生い立ちや家族のこと、セネガル人の父を持つがゆえ、容姿に持たれる偏見や、日常の疑問などを綴った書籍が話題の伊藤亜和さん。
── 作家を仕事にされた理由から聞かせてください。
高校時代にTwitterなどに書き込む延長で始めたnoteの文章を数年前に見つけてもらったことがきっかけですが、もともと作家業をしたかったわけではないんです。小さい頃から、何らかの手で人前に出なければいけないような使命感を持っていたのか、手段を選ばずいろいろなことをやってきました。例えば、お芝居やモデルの仕事とか。文章はその中でたまたま出合ったという感じです。
── 切り込んだ言葉や本音など赤裸々に表現していますが、ユーモアがあってとても読みやすいです。
見た目からすぐに怖いとか冷たそうなんて言われるので、本の中では意図的に自分を情けなく見せたり、笑われるような書き方をしているところがあるんです。実際には、私の文章を読んで心を寄せてくれる人は、想定よりもずっと多くて。文章を純粋に評価してくださるのは嬉しいです。ただ、顔を出してメディアに出演することで私の容姿を初めて知ったり、肩書に“モデル”がついたりすると、離れてしまう人もいて。一つ引っ掛かりがあるだけで、解けかけた誤解がまた戻ってしまいます。
── 誤解や偏見を解きたくて文章を書いている部分もある、というお話も目にしました。
もちろん私が表に立つことで、結果的に差別なんかがなくなるのであれば当然嬉しいですけど、「偏見、差別、反対!」なんてあえて主張をしたり、「みんな集まれ!」みたいなことはやらないようにしていて。だって私が旗振りをして、同じようなルーツの人たちしか私の本を読まないというような状態になると、それはまた彼らの孤立に繋がりますから。だからみなさんがヒマな時に読んでもらえて、親近感を持ってもらえればいいな、って感じです。
── 善意の空回り、あるいは押し付けになるようなことって意外とありますよね。
それはしたくないです。またSDGsの提言で言えば、ジェンダー平等の部分が、実は、一番自分が関わりにくいところ。私は女性である前にずっと“外国人扱い”をされてきて、女性としての“箱”に入れてもらったことがなかったから。恋愛の話や、女性ならではの苦労の話になると、あんたは入ってこなくていいよって。男女問わず立場を平等にしていこうという以前に、じゃあ自分は女性を傷つけるようなことをしていないかな? と慎重になったりも。
── なるほど。そして、いわゆる偏見や差別を持たずとも、“見て見ぬふり”をしてしまうという人も少なくないと思います。
偏見や差別から遠ざかろうとしてしまうあまり、全てを自分の許容できるものに加工しようとしてしまうんでしょうね。ただその過程で、あなたはどういう人なのかを処理するために、自分の知っている言葉で相手のことを理解しようとラベリングしているかもしれない。それはのちに偏見になっていくのではないかと思うんです。流行りのMBTI診断みたいなものもそうですよね。それも年月をかけたら、新しい偏見として芽を出していってしまうのではないかと。カテゴライズせず誰もが一人ひとりを初めましての人だと認知することって、言うのは簡単だけど実際にやるのは難しいですよね。でもそれをやっていかなければいけないとも思います。
自分の価値観を疑い続けることが大事
── 教育を受けた新しい世代と、古い価値観や偏見を抱える世代が混在した時代で、どういう意識や立場でいるのがいいのでしょうか。
例えば自分の身内が「それ絶対に外で言わないで」って思うような、びっくりするような偏見を家の中で口にすることがあるじゃないですか。でも、考え方や価値観に少しズレがあった時点でピシャッとシャッターを下ろすのではなく、その相手が言いたい本質を見極めるフィルターを持つことが大事なのではないでしょうか。
差別的な言葉を使ったとしても、私のことを肯定して守りたいとか、慰めたいという思いからの発言だとしたら、フィルターを通してそういう思いやりだけを抽出すればいい。数十年先には、私たちの世代が、古い価値観にまみれているかもしれないし、今の自分の価値観が普遍的な正義だとは考えずに常に疑い続けることが、世代間の交流には必要だと思います。
── いっときの価値観ですもんね。
それを“最新”だと思わないこと。高校時代、周りが私に気を遣いすぎていたゆえに、友達ができなかったんです。でも大学に入ったら、容赦なく私を、差別用語を使って呼んでくる人がいて(笑)。口は悪いけど、私に向き合って本質を理解してくれようとしているのがわかったんです。そして今でも付き合っているのは結局、大学時代の友人たちなんですよね。
『アワヨンベは大丈夫』
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個性的な家族のなかで起きる出来事を著者の視点からドラマティックに綴ったエッセイ集
note「言葉」に投稿した「パパと私」が大きな反響を呼び、この書籍が生まれるきっかけに。セネガル人の父ほか、家族の愛と旅立ちを綴った物語。 ¥1,760/晶文社
Profile
伊藤亜和
いとう・あわ 1996年10月13日生まれ、神奈川県出身。文筆家、モデル、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。最新刊『変な奴やめたい。』がポプラ社より発売中。
anan 2486号(2026年3月4日発売)より















