
給与明細を見て、「引かれてばかり!」と憤慨していても、実際のところは何のためにそれを支払い、何に使われるお金なのかを把握している人は意外と少ない。今さら聞けない、税金と社会保険の基本をやさしく解説。
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たくさん引かれるのには理由(わけ)がある!? 税金と社会保険について学ぼう。
税金も社会保険も私たちを「護る」お金。
給料が上がらず、物価高が続く今、少しでも手取りを増やしたいと願うのは当たり前のこと。ただ、税金も社会保険料も給料から天引きのため、自分にできることはないと諦めてしまうのも無理はない。
「とはいえ、ただ眺めているだけでは不満は溜まる一方。でも、実は会社員はみなさんが思う以上に手厚く守られています」
そう話すのは社会保険労務士の佐佐木由美子さん。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんもこう続ける。税金も社会保険も私たちを「護る」お金。
「少子高齢化が加速し、現役世代の負担ばかりがクローズアップされがちですが、国もこの現状をなんとかすべく、子育て世代の支援やリスキリングのサポートに本気で乗り出しています。特に保険は出産、育児、介護、スキルアップなど、当事者にならないと、そのメリットを感じられないかもしれませんが、その時が来たら、きっと“よかった”と実感するはず」
では、給与明細をお手元にご用意を。引かれるお金の各項目について、その意味を見ていこう。
給与明細から読み解く「引かれるお金」とその意味
税
そもそも収入には税金がかかる。そして、その税金は国に納める「国税」と地方公共団体に納める「地方税」があり、私たちに最も身近な税金が国税である所得税と地方税である住民税だ。会社員は毎月給料から天引きされるほか、年末調整も会社が代わりに行ってくれる。
【所得税】所得が高い人ほど多く納める「累進課税」。
私の所得税はいくら? 答えは定められている「所得税の速算表」で簡単にわかる。課税所得がたとえば330万円から695万円未満であれば、税率は20%。195万円未満なら5%、4000万円以上であれば45%といった具合に、課税所得が高い人ほど納める税金は多くなる。
【住民税】自分が暮らす地域の公的サービスに使われる。
ゴミ処理や清掃、教育福祉、消防と救急など、意識せずとも当たり前のように受けている公的サービスは、国と地方が分担している。住民税はその地方が担っている費用を住む人たちで負担するもの。「市町村民税」と「都道府県民税」があり、基本的にどのエリアも税率は6%と4%。
◎KEYWORD
・課税所得
1年間に得た収入から必要経費と各種控除を差し引いた、課税の対象となる所得のこと。所得税も住民税もこの「課税所得」に税率を掛けて算出する。
・年末調整
12月頃になると会社が改めて所得税を計算し直し、天引きで払いすぎていた税金を戻したり、足りない分を追加して徴収したりして最終調整を行うこと。
社会保険
月給の約15%が目安といわれ、給与明細の中で最も「引かれている」と感じるのが社会保険。でも、これは万が一の場合に自分の身を守るための保険でもある。年々上がっているものの、社会保険の多くは会社が半分負担、もしくは多めに負担してくれている。
【健康保険】医療費が原則3割負担で済んでいるのはこの保険のおかげ。
病気やケガで治療を受けた時に医療費が安く済む。働けず、収入が減った時に給付がもらえる。これはすべて、健康保険に加入しているおかげ。公的医療保険は3種類あるが、会社員が加入しているのは健保組合や協会けんぽが運営する被用者保険。毎月の支払額はボーナスを含む標準報酬月額に基づく割合(保険料率)で決められ、その金額を会社と本人で折半して負担。
◎こんな給付が!
・高額療養費制度
医療費の家計負担を軽減してくれる。
突然、高額な治療が必要なケガや病気に襲われた際、その治療費の自己負担を一定額以下に抑えてくれる制度。自己負担の割合は年齢や所得によって変わる。入院中の食費や差額ベッドなどは対象外。原則、自分で申請しないともらえない。
・傷病手当金
働けず給与が出ない時でも安心。
病気やケガで働けない時、生活を保障するために支給される。休む前1年の平均月収の約3分の2を日割りし、休んだ日数分がもらえる。連続3日間以上仕事に就けず、休んだ日数分の賃金がもらえない場合は、その対象になる可能性あり。
・出産育児一時金、出産手当金
分娩費用や産休中の収入減をカバー。
出産は健康保険の適用外。そのため、1児につき50万円を出産育児一時金として助成。出産手当金は、働く女性社員の産休中に健康保険からもらえるお金。額は傷病手当金と同じ。健康保険の被保険者であればパートでも受け取れる。
【介護保険】40歳になると自動的に徴収される、介護に備えた保険制度。
給与明細の差引支給額が減っていると思ったら、40歳になって介護保険料が徴収されていた……というケースは多々。介護保険は2000年に創設され、加入は40歳から。介護を社会全体で支えることが目的。健康保険と同様に、保険料は会社と本人で折半して負担する。利用は要介護の度合いに応じて原則65歳以上だが、65歳未満でも関節リウマチ、がん末期など、特定疾病に限り利用可能。
【厚生年金】国民年金に加え、会社員と公務員が加入する公的年金保険。
たびたび話題になる、「将来、年金はいくらもらえるの?」問題。ここに大きく関わってくるのがこの厚生年金。日本の公的年金制度は、国民年金(基礎年金)と厚生年金保険の2階建て構造で、会社員や公務員は2つの年金制度に加入している。そのため、もらえる年金もダブルに。月々に支払う厚生年金の保険料は健康保険、介護保険と同様に会社と本人で折半して負担。
◎こんな給付が!
・老齢厚生年金
原則65歳から生涯にわたって支給される。
いくらもらえるかは納めた年数、収入(月額の給与だけでなくボーナスを含む)によって変わる。会社員の国民年金を含めた年金受給額の平均は、月約14万7000円(出典:厚労省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。
・障害厚生年金
障害者認定を受けた時からもらえるお金。
障害厚生年金は1~3級の3段階に分かれていて、障害等級が1級、2級であれば障害基礎年金も併せて支給される。3級であれば障害厚生年金だけが支給される。該当しなくても一時金として障害手当金が支給されるケースもある。
・遺族厚生年金
残された家族の経済的な助けに。
亡くなった人によって生計を維持されていた配偶者や子どもなど、遺族が受け取れる年金。家計を支えていた人が会社員で、厚生年金保険に加入していた場合に受け取れる。遺族厚生年金は所得税、住民税などが非課税なのも特徴。
◎KEYWORD
追納制度
学生時代や無職の時期に国民年金保険料の納付漏れがあった場合は、あらかじめ申請し、免除・納付猶予を受けた期間であれば、後から納めることも可能。ただし、追納できる期間は原則として10年以内なので注意。追納することで、将来受け取る年金額が変わることもあるので、チェックを。
【雇用保険】失業、育休、学び直しなど、雇用に関する支援をする保険。
“万が一”に備えた社会保険の中でも、失業時や育児休業時、介護休業時など、私たちのライフステージに最も密接に関わってくるのが雇用保険。保険料率は毎年見直されている。また、雇用保険料は健康保険料同様、毎月の給与だけではなく、ボーナスからも控除される。アメリカの失業保険は全額を労働者が負担するが、日本は会社が多めに負担してくれているのも特徴。
◎こんな給付が!
・求職者給付
いわゆる「失業手当」はここから。
倒産やリストラ、家庭の都合で退職せざるを得ない場合などに、生活をサポートしてくれるお金。基本手当を受給できる日数は90~360日と幅があり、給付額は離職時の年齢や離職理由、雇用保険の加入期間などによって決まる。
・就職促進給付
再就職の就職活動を後押ししてくれる。
「就業促進定着手当」「再就職手当」「就業手当」などがあり、できるだけ早く再就職できるよう、就職活動のモチベーションを高めることを目的に給付される。早期に再就職が決まれば、月収が多い人なら再就職手当が50万円を超える場合も。
・教育訓練給付
スキルアップや資格取得を支援。
労働者の能力向上やキャリア形成をサポートするための給付金。指定の教育訓練を修了すると、受講料や入学料などの一部が支給される。より訓練効果を高めるため、2024年に一部見直しが行われ、受講費用の給付率が拡充。
・介護休業給付
介護休業時の収入減をカバー。
労働者が働き続けられるよう援助、促進することを目的とした給付金。なかでも「介護休業給付金」は、給料の67%を通算で93日間支給される。最大3回に分割して取得できるため、30日、40日、23日などと分けて休業できるのもポイント。
・育児休業給付
新たに「出生後休業支援給付金」が創設。
育休中の収入減をカバー。給料の67%相当を受け取れる。4月から始まった「出生後休業支援給付金」では、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額が給付される。育児休業給付金と合わせると給付率が80%になり、手取りの10割相当に。
フリーランスは何を支払っている?
自由度が高く収入に上限がないフリーランス。支払う税金は所得税や住民税など、会社員とほぼ変わらないが、各都道府県に支払う「個人事業税」がある。ただし、所得が290万円以下の場合は課税されない。一方、社会保険は国民健康保険料は支払うが、傷病手当金や出産手当金がもらえず、国民年金も支払うが年金受給額の平均は月約5万8000円(出典:厚労省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)など、差がある。最も異なるのは雇用保険。フリーランスは加入できないため、失業手当や育児休業給付金などはもらえない。万が一、に自分で備えておく必要がある。
社会保険料や給付金で少しでも得したい人は…。
給付額を増やすハックは、ないわけではない。「知っている人は知っている」と高山さん、佐佐木さんも話す、私たちにできる“小さな工夫”とは。
・4~6月は残業注意。
健康保険、介護保険、厚生年金保険、この3つの社会保険料は、毎年見直される。その際、算定のもととなるのが4~6月の給料の平均額。この間、残業を控えると保険料は下がる可能性が。ただ、老後にもらう厚生年金は現役時代の給与が高い方が多くなるため、一長一短な面も。今の手取りを増やすか、未来に回すか。よく考えたい。
・退職前は残業を多めに頑張る。
退職後に、「少しでも失業手当を多くもらいたい」場合は、退職を計画的に行う手が。というのも、失業手当は辞めた日の直前6か月の賃金をもとに算出されるので、その間、残業が多ければ給付アップが期待できるから。失業手当は離職理由と年齢、雇用保険の被保険者期間がポイント。
Profile
佐佐木由美子さん
社会保険労務士。グレース・パートナーズ社労士事務所代表。人事労務、社会保険面から企業経営を支援。女性の雇用問題にも取り組む。著書に『知らないともらえないお金の話』(実業之日本社)など。
高山一恵さん
ファイナンシャルプランナー。Webメディア「FP Cafe」「Mocha」の運営ほか、働く女性のマネーのお悩みを解決、サポート。最新刊に『子育て世帯がもらえるお金のすべて』(彩図社)がある。
anan 2449号(2025年6月4日発売)より