6月4日発売のanan2449号、今号の第2特集は「今どきのマナー」です。テーマは“人に優しい、社会に優しいい”マナー。たとえば、体や視覚、聴覚などに障害のある方にとっての“優しいマナー”って、どういうことだろう。自分はちゃんと正しく向き合えているか? 当事者のみなさんはどう考えているのか、話を伺ってきました。取材を通していろいろな気づきがあったので、お伝えできればと思います。
横浜市旭区にある「日本補助犬協会」。普段、補助犬と関わることがほとんどないからか、お話を伺ったなかでも特に印象に残りました。視覚に障害のある方が連れている盲導犬は、みなさんも街で見かけたことがあると思いますが、補助犬には、車いす利用者など体に障害のある方の日常の生活をサポートする介助犬や、聴覚に障害がある方の耳となって音が鳴ったことを知らせてくれる聴導犬がいます。本誌では、今の日本が補助犬にとってまだまだ優しくない社会で、補助犬のことを想定していない街づくりやデザインであることを紹介しました。では、補助犬と一緒に行動する補助犬ユーザーの方にとってはどうなんでしょう?
バリアフリー。ユニバーサルデザイン。これらの言葉は今では、社会に当たり前のように浸透している感じがしますよね。たとえば、駅でスロープやエレベーターが増えていたり、公共の施設で多目的トイレ(バリアフリートイレ)が設置されていて、車いすを利用する方のことも考えられているな、とか。でも、自身も車いす利用者で介助犬ユーザーの日本補助犬協会広報の安杖直人さんの思いは、それとは少し違いました。「僕たちにとって街でいちばん緊急度が高いのがトイレ問題なんです。以前は、車いす専用のトイレがありましたが、今はそれが、車いす利用者に限ってではなく、高齢者、子供連れの方、妊娠中の人もですし、誰でも使っていいトイレになりました。ユニバーサルに広げていくというのはいいことなんです。でも、車いす利用者にとってはどんどん使いづらくなっています。使いたいときにすぐ使えない。そもそも車いす専用だったものをユニバーサルに開放してしまったからですが、本来はそうではなく、一般の健常者用のトイレを少し広くするなどして誰でも使えるユニバーサルデザインにしていくという視点が欲しいですね」
デザインという意味では「街がおしゃれになったことで、却って不便になった面も」とは、盲導犬ユーザーの日本補助犬協会理事の青木保潔さん。「エレベーターの階数表示がおしゃれになって、昔みたいに白黒ではっきりしたデザインでなくなっているところも。それだと暗くて、僕みたいなロービジョンの視覚障害者だと表示が全く見えなくて。ホテルのフロアや街中も、雰囲気重視で照明が暗めになっていたりしますよね。やはりそれだともう全く歩けないんです」。多数派に合わせてデザインよくカッコよく作ったものが、少数派には使い勝手が悪くて障害になっている。社会的バリアになっているんですね。もちろん多目的トイレにしても、ユニバーサルな街づくりにしても、みんな良かれと思って作っている。「でも、デザインするときにロービジョンの人や車いすの人のことは想定していないんですね。悪気なくちょっとだけ忘れてしまっているというわけです」(日本補助犬協会代表理事・朴善子さん)。
悪気はないけれど想定も想像もできていない。今回、そこに気づかせてもらった点ですごく意味のある取材だったと思います。そもそも、忘れてしまっているとは、それらの人たちへの無理解や無関心で、心のどこかで見えないバリアを作っているということなのかなと。そのバリアをなくし、心のバリアフリーを実践できたら、誰にとっても同じように優しい社会になるのではないでしょうか。(KM)

左・安杖直人さんと介助犬のノース。右・青木保潔さんと盲導犬のアール。
取材中もすごく大人しくて、すごくお利口さんでした。かなりの数の言葉を理解しています。