実は昔から存在!? 激動の歩みを辿るAI。

いま存在感を放つ“AI”とは何なのか。AI研究の専門家である今井翔太さんに聞いてみると…。
「戦後、1946年に汎用コンピューターが開発された頃から、機械に人間の知能を持たせる発想はありました。ただ、黎明期は計算が速いだけで画像の分別もできなかった。1980年頃に知識をAIに与えるアプローチが始まりましたが言語での教育には限度があり、機械が自主的に何かを学ぶことはありませんでした。流れを変えたのが2012年に登場した“ディープラーニング”。人間の脳にある神経細胞(ニューロン)の構造を機械上で再現することで、問題の解き方を自動的に学ぶ“機械学習”が行えるように。これが、希望する文章や画像を出力してくれる生成AIの実現に繋がったのです」
オフィスワークや映像制作などの分野でも作業効率を高めてくれるAI。人気のChatGPTをはじめ、どんな種類があるのか。使い方のコツやAIの未来についてもご紹介!
Q1. どういう種類の生成AIがあるの? 私たちはどんなふうに活用できるの?
A. メールの作成から分析まで。コツさえ掴めば、日々のタスクが効率的に。
生成AIを使うコツは、まず日常的に使うこと。そして質問の仕方を工夫することですね。問いかけの最後に「一歩一歩考えてください」と追加するだけで性能が30%上がることもあるんですよ。身近な使い道でいうとメールですね。生成AIは何万字という文章を一度に読むことができるので、長文を書いたあとに「間違いを確認してほしい」と指示を出して誤りを洗い出すことができます。単に誤字脱字だけでなく、文章全体の意味合いまで分析してくれる点も心強い。英文メールなら「この文面で正しい?」と聞けば「日常会話ではそういう表現はしないですね」とリアルな文章を教えてくれるでしょう。試行錯誤しながらいろいろ質問してみるといいですよ。
◎いま代表的な生成AIをご紹介!
【テキスト生成型の代表格】
・ChatGPT
OpenAIが開発した対話型AIで、最新モデルGPT‐4 Turboを搭載。文章生成、コード作成、要約、創作など幅広く使われ、多言語に対応し日本語も流暢。API(ソフトウェアやアプリケーション間で機能を共有できる仕組み)でのビジネス活用などにも適している。
・Gemini
Google DeepMindが開発した生成AIで、テキスト、画像、コード、動画、音声などのデータを処理可能。特にマルチモーダル(テキストや音声などの異なる複数データの処理)性能に優れ、視覚情報を理解・生成する。Gemini 2.0では、より高度な推論や翻訳が可能に。
【音声生成型】
・Suno AI
テキストからリアルな音声や音楽を生成できるAI。自然なイントネーションや感情表現が可能で、人間らしい音声を生み出せるため、主にナレーションやBGM、ボイスアシスタントなどに活用されている。作詞・作曲機能も強く、自動で一から音楽を制作することも。
【動画生成型】
・Hailuo AI
テキストを入力することで高品質でリアルな映像やアニメーションを生成できるAI。キャラクターの表情や動きの自然さが特徴で、短時間でクオリティの高い映像が作れる。映像制作やインタラクティブコンテンツ制作分野での発展が期待される。
Q2. AIによって仕事は減る…? これからもしっかりと働くには?
A. ホワイトカラーの方が影響は受けやすい。でも業界内でAIの第一人者となるチャンスかも!
事務仕事を行うホワイトカラーの方々は、ある程度は影響を受けると思います。ただ「人間は社長1人だけで従業員はすべてAI」という組織は現実的ではありません。なぜかというとAIは間違えることがあるから。業務で「AIに任せたらAIが間違えました」は通用しないので、状況を理解し、責任を取る人材が必要になる。専門性の高いエキスパートの仕事がなくなることはないでしょう。
そもそも今の社会は業務が細分化されていて、どのAIがどの仕事の生産性を高めるかまで研究者も把握しきれていません。なので「AIに仕事を取られる」と恐れずぜひ使ってみてほしい。先人がいないからこそ、高確率で自分の職種でのAI活用の第一人者になれる可能性があるといえます。
Q3. 今後AIはどう進化する? 私たちの生活どう変わるの?
A. PCの操作を、勝手にやってくれるように。またパーソナライズされた存在にも進化。
昨年末から一部の生成AIでコンピューターの自動操作が導入され始めているので、近いうちに自動化が進むのではと思います。オフィスで「これやっといて」とコンピューターのAIに指示を出せば、勝手にグーグルで検索をし、情報を調べてワードに書き込んで、PDFに変換してメールで送信までできるようになるはず。
期待されるのは、よりパーソナライズされたAIです。現在の生成AIの多くは有料プランでユーザーとの親和性を高められますが、サーバーは別の場所にあるため個人情報の入力は危険です。その点、僕が研究開発しているのはスマホやPC内で動くオリジナルAI。日本におけるドラえもんやたまごっちのような、パートナー的なAIを形にできたらと思っています。
Q4. AIのこれからが知りたい。日本はAIとどう関わっていく?
A. キャラクター文化から派生して、“共存”する在り方を模索できるはず。
キリスト教文化圏では、人間は神様が作った特別な存在という考え方があるので、機械が生んだAIは人類に対抗する存在として描かれやすい。『ターミネーター』や『マトリックス』がその例です。一方、日本ではドラえもんのように未知の生物をキャラクター化して愛でる感性がある。AIをパートナーとして捉え、共存するAIを生み出せるのではないかと思い研究を続けています。
AIの発展は日進月歩。実は論文は1日に何百本も出ています。専門性が高い情報は難しすぎるので、一般にはXで話題に上った動画や画像の生成AIを試してみるのがおすすめです。生活の中で目に付いたものを試してみる、まずはそこからAIの世界に触れてみてください。
PROFILE プロフィール
今井翔太さん
1994年、石川県金沢市生まれ。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻松尾研究室出身。人工知能分野における強化学習の研究に従事する。著書に『生成AIで世界はこう変わる』(SB新書)などがある。
anan2438号(2025年3月12日発売)より