技術を使い、町に付加価値をつける好機にしては?
赤字ローカル線の問題が深刻になっています。少子高齢化や過疎化が大きな要因ですが、コロナ・パンデミックにより、JRの経営を支えてきた新幹線の利用客が激減。赤字を補填できなくなったことが大きく作用しています。1kmあたりの1日の平均乗客数1000人未満を主な基準に、現在、JR東海を除くJR5社の61路線100区間が見直しの対象になりました。
赤字路線が廃止になってしまうことは、地域にとっては死活問題。住民の足が失われ、移動が困難になるだけでなく、地域の誇りが失われてしまうんですね。電車が通ることで、都市部とつながり、人の往来によって文化が育まれます。赤字でも朝夕だけ運行するなど路線をなんとか維持してきたのは、学生の通学に必要だったからです。地域に学校は必須。学校を失えば、その土地で子供を産み育てようというモチベーションもなくなりますから、将来的に町は廃れていってしまいます。
そんななか、北海道の上士幌町では新しい試みを始めています。この地域は30年以上前に鉄道が廃止になり、帯広空港からのアクセスは限られた本数の路線バスしかありません。観光客はレンタカーで移動し、運転手不足のためタクシーはほとんど走っていません。そこで町はデジタル化と新しいテクノロジーを導入し、空港と町の間に自動運転バスを走らせることにしました。上士幌町は自動運転車の実証実験の場になっているんですね。時速30~50kmのゆったりしたスピードで、観光客は雄大な農地や牧草地を眺めながら、自動運転バスのなかでお弁当やお酒を楽しんだりして過ごし、町まで来ることができます。また、鉄道の代わりに、ドローンと陸送を組み合わせたハイブリッド型の輸送も検討中です。
「赤字ローカル線の見直し」というと、後ろ向きなニュースとして語られがちです。しかし、最新技術を駆使することで、町や観光に新たな付加価値をつけることも可能になります。国鉄の民営化により、これまでは地域にインフラを背負わせすぎたかもしれません。国や地域の補助金を投入することで、新産業を起こすことも今後は考えていく必要があるでしょう。
堀 潤 ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。
※『anan』2022年10月5日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)