脳もカラダと同じように、月経周期の影響を受ける。
「脳とカラダは別物と思いがちですが、脳もカラダの一部です。anan読者の女性は、月経周期の影響を受けやすい年代の方が多いと思います。カラダのコンディションの良し悪しが、月経周期によって変化することをご存じの方も多いかと思いますが、同じように脳も当然影響を受けるわけです。そこには月経周期によって増減する、脳内のセロトニンが関係していて、セロトニンの分泌は女性ホルモンと連動しています。まずは、そのことを覚えておきましょう」
女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2つがあり、脳からの指令によって卵巣から分泌される。エストロゲンは月経後から排卵期にかけて増加し、プロゲステロンは排卵日から次の月経までの間に増加する。女性の場合、このサイクルに合わせてセロトニンの量も増減し、脳や心身に影響を及ぼす。
「セロトニンが適切なレベルにある月経~排卵の間は、やる気も出やすく、夜もぐっすり眠れたり、朝の目覚めも良くなるので、脳のパフォーマンスが上がります。逆に、セロトニンのレベルが下がってしまう排卵前後と月経前は、すごくイライラしたり、訳もなく悲しくなったりと、不安感情が起こりやすく、脳のパフォーマンスも下がります」
【月経周期とセロトニン】
女性ホルモンと脳内のセロトニンの増減が連動しているのがわかる。排卵日、月経前、月経中はセロトニンの量がガクッと減る。
自分の状態を知ることで、コントロールしやすくなる。
それならばセロトニンを増やす生活を心がければ、脳を活性化できるのでは? と思うが、そんな簡単なことではないそう。
「たしかにセロトニンは、アミノ酸の〈トリプトファン〉が原料になって作られているので、赤身の肉類、かつお、まぐろ、大豆製品など、トリプトファンを多く含む食べ物を摂取することで増やすことができます。しかし無理に増やそうとしてもなかなか限度があります。だから『あぁ今はセロトニンが足りない時期だから、しょうがないな』と思うことで、やり過ごすことも大事です。それが自分を客観視する“メタ認知”という考え方で、これを習慣化できると、気の持ちようが変わってきます。『そういえば、あと2日くらいで月経が来るな』と思い出すことで、ちょっとモヤッとした気持ちになったときに、その原因となった出来事を探すよりも、自分の生理的な脳の状態を思ったほうがコントロールしやすい場合があります。『今はセロトニンが足りていない時期だな』ということが分かったら、『今日は大事なメールを打ったら変な文面で送ってしまうかもしれないからやめておこう』とか、『お風呂に長めに入って、ボディケアをしよう』などセロトニンを増やすような対応が自分でできると思うんですね。調子が悪いと感じるときは、無理して良くしようとしないのも、勇気です。待てば必ず雨がやむように、待てば必ず脳の良い状態は巡ってきますので、慌てず穏やかに過ごす。それが実は、積極的なコミットメントの一つではないでしょうか。なので、まず最初に“自分を知る”ことを提案したいと思います」
中野信子さん 脳科学者。脳科学の視点から人間社会で起こりうる問題や人物を読み解く語り口に定評がある。『世界の「頭がいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)など、著書も多数。
※『anan』2022年9月28日号より。取材、文・鈴木恵美
(by anan編集部)