国の成長には大事な過程。競争が進みすぎたことが問題。
「新自由主義」とは、国がさまざまな規制を取り払い、市場に委ねて、自由に競争を促す社会のあり方、経済の思想です。ほかに「市場原理主義」「小さな政府」「民営化」「規制緩和」という言葉でも言い表されます。
対になる「大きな政府」は、国が規制をかけて、国民生活を守りながら経済活動をコントロールします。究極の大きな政府は中国。高い税金を取るかわりに、国が社会保障政策をしっかり行う北欧も大きな政府です。
日本もかつては大きな政府でした。鉄道や電力、石炭、通信などは国家が担ってきましたが、新しいビジネスやサービスを生み出す民間にまかせたほうがいいと、国鉄はJR、電電公社はNTTというふうに民営化が進みました。とくに小泉政権以降は規制緩和を大胆に進め、郵政民営化も実行されました。安倍政権でも新自由主義的な政策がとられました。規制緩和をし、国家戦略特区を作り、成長戦略を投入。しかし、それが一部の、政府に近い企業だけ優遇されているのではないかという批判も出ました。
新自由主義では、企業は競争に勝ち抜くために徹底した合理化を求めます。やがて、人をコストとみなし、人件費は引き下げられ、稼げる人はいいけれど、稼げない人は徹底的に安く使われるようになってしまいました。企業は人を育てる余力を失い、正規雇用と非正規雇用の格差は広がる一方です。
国が成長していく過程ではある時期、新自由主義は必要なのだと思います。ただ、競争が行きすぎた結果、一億総中流社会と言われた日本でも、中間層が分かれていなくなり、国の活力も奪われました。グローバル企業はますます成長し、国のコントロールとは程遠い場所に行ってしまいました。
こうした問題は民主主義国家のどこでも起きており、2020年代は世界的に、行きすぎた格差をなくし中間層を取り戻そうと再分配政策に力を入れています。SDGsでは「働きがいも経済成長も」と、新自由主義的な経済の修正も目標に掲げています。実現には、私たち働き手も、問題ある労働環境には声を上げたり、同じ思いの人と連携することが大事になると思います。
堀 潤 ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。
※『anan』2022年1月12日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)