N(名越さん):僕はこれまで、精神科医という仕事をしてきた経験から、不安や悩みを“根本から解決すること”は、本当にそこまで必要なのかって思うところがあるんです。
S(しいたけ.さん):といいますと?
N:もちろん、とても深刻で、しっかり解決したほうがいい場合もありますよ。でもそれは100人に1人くらいの話で、そういう人は専門家のカウンセリングを受けたほうがいいでしょう。ただ、そのほかの大多数の人の不安や悩みっていうのはね、根本からの解決というより、朝から機嫌をよくするとか、毎日を少しずつ底上げしていくほうが大切なんじゃないかな、と思うんです。
S:それはとても興味深いお話ですね。
N:とりあえず僕ね、心理的にしんどい状態の人には、鏡に向かって口角を上げて笑顔にして、映っている自分に「大丈夫」とか「素敵だよ」って言ってくださいって言うんです。でも、これをやるにはその前に条件があって、“絶対に毎日やる”と誰かに誓いを立ててからでないと意味がない。僕の心理講座などにも真っ暗な表情をして来る子がいるでしょ。そうするとその子に「誰にでもできることだけど、絶対にやると言うまで教えないよ」って言うんです。その時に焦って「やります!」と答えても、「きちんと考えて、またおいで」って。そうしないと、聞いたところで「バカげている」って思って、真剣にやらなくなってしまいますからね。
「大丈夫」という役柄を自分の人格に取り入れる。
S:実際、「大丈夫」って言っているうちに、大丈夫だと思えるようになるのでしょうか?
N:思えるというか、“役になりきる”ということ。演劇をイメージするとわかると思いますが、シチュエーションに応じた役柄に徹すると、それが人格の中に取り入れられるという。
S:なるほど。「大丈夫」という役柄が自分のものになるんですね。ただ、これを絶対にやりたくても、名越先生が身近にいない読者は誰に誓いを?
N:その相手は、学生時代の恩師とか、先輩とか、親友とか、自分の人生の羅針盤になっているような人がいいでしょう。
S:僕は昔、まったく友達がいなかったんですけど、そんな以前の自分のように言える相手がいない場合は…。
N:それなら架空の“師”に誓うという方法もありますよ。椅子を2脚、向かい合わせに置いて、一方に自分が座り、誰も座っていないもう一方の椅子に、自分の話したい相手がいると想定するんです。心理療法の世界では「エンプティ・チェア」といいますが、これもおすすめです。この誓いさえしっかり立てたら、あとは朝、起きた時にでも、会社でやっかいな会議の前にでも、トイレに駆け込んで鏡に向かって「大丈夫」って。
名越さん流自問自答メソッド 約束型「大丈夫」法
実践する前に、必ず「やる」と誓いを立てて。
鏡の中の自分を見つめて、口角を上げ気味で「大丈夫」と声をかけ、前向きな気持ちを養う方法。訝しんだり、面倒くさがったりしているようでは、もちろん意味なし。そうならないために、実在の人にでも架空の人にでもいいので、「絶対やる」と誓いを立てること。最低でも1日1回、1か月は行って。
なこし・やすふみ 精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。NTV系『シューイチ』ほか、さまざまなメディアでコメンテーターとしても活躍。著書多数
しいたけ.さん 占い師。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究するかたわら占いを学問として勉強。著書に『しいたけ占い 12星座でわかるどんな人ともうまくいく方法』(小社刊)ほか。最新刊『しいたけ.の部屋 ドアの外から幸せな予感を呼び込もう』(KADOKAWA)が12月15日に発売予定。しいたけのブログ https://ameblo.jp/shiitake-uranai-desuyo/ 名越先生から「体癖」について学ぶなど師弟関係にある。ツイッターでのふたりのやりとりに注目者多数
※『anan』2018年11月28日号より。写真・大嶋千尋 イラスト・100%ORANGE 文・保手濱奈美
(by anan編集部)
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