高架下も生まれ変わって小綺麗さに磨きのかかった中目黒駅を至近にしながらも、どこか猥雑な情緒を残した路地裏に、「水餃子 東京台湾」の文字が発光していた。夏の暑い日、その赤い看板に吸い寄せられて店の戸をガラガラと引けば、畳にちゃぶ台が並んだ風変わりな店内は明るい熱気に満ちている。店先のシェルフには台湾や日本の古道具がずらりと並び、その素晴らしきごちゃごちゃ感はとても3月末にオープンしたばかりとは思えない。座布団に座ればすっかり安心感がこみ上げて、頭上には鮮やかな提灯が揺れていた。台湾の縁起物なのだろうか。
自慢の水餃子はちょっと他ではお目にかかれない個性的なヤツだった。まずもって皮力。ハリのあるムチムチ感とちゅるんとしたみずみずしさが見事に同居した極めて麗しい肉厚食感は、アゴが疲れるまで食べたいほど感動的。そしてタレ力。台湾醤油にマンゴーやココナッツなどの南国果実を漬け込んだ甘いオリジナルタレは、それだけでお酒が進む危険なおいしさだ。「皮とタレを味わうための餃子なんですよ」と、オーナーの須藤晋次朗さんが言うだけのことはある突き抜けっぷり。須藤さんが惚れ込んだ台湾の風土や食文化を生かしながらも、オリジナルな発想やテクニックを加えて新しい味わいに昇華させた創作的台湾料理は、そのひとつひとつに唯一無二の感動とストーリーが詰まっている。
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