『超かぐや姫!』山下清悟監督インタビュー。描きたかったのは「普遍的な人間ドラマ」

初の長編監督作品であり初のオリジナルアニメ『超かぐや姫!』を手掛けた山下清悟監督。大注目の本作はどのように生まれたのか。


描きたかったのは普遍的な人間ドラマ

── 配信されての反響についてはいかがですか?

この規模感になるとは全く想定していませんでした。配信前後で検索をせずともおすすめ欄が『超かぐや姫!』で埋め尽くされたことが何度かあったんですが、経験のないことで驚きました。

── 想像以上だったわけですね。

そうですね。公式ポストなどのファボ数が増えて、しかもじわじわじゃなく爆発が何度も起こった感じで。公式Xのフォロワー数も配信前は6万ぐらいだったのがもう41万(4月時点)なんですよ。YouTubeのチャンネル登録者数も60万を超えて、加速度的に増加して。

── 舞台は仮想空間ツクヨミで、ライバーやボカロ音楽も登場しますが、ネット文化の理解度を問わずヒットしている気がします。

やりたかったのは普遍的な人間ドラマなんです。企画が進むにつれて肉付けをしたので、インターネット文化を描くことそのものは目的ではなかった。メタバースもライブも物語の構成要素のひとつであり舞台装置ではありますが、それぞれが程よくバランスをとれたのかなと。あと自分はアクションアニメーターだったのでアクション要素を入れたい気持ちがありました。

── 確かにKASSENのシーンは動きが滑らかで大迫力でした。

90分や120分のアクションアニメを作ると、対立構造や世界観の説明に終始してしまいがちなんです。前提なしで派手なアクションをするには…と考えて『サマーウォーズ』のように劇中にバトルゲームがあればキャラ主体のアクションができる。そこで配信者という存在にクローズアップしたんです。配信者なら視聴者がキャラに入り込むまでの時間が早いし、推してもらいやすい。

── なるほど。スタート時には物語の骨子はできていたんですか?

はい。原案を出してくれた社員のフジヤマルリが、キャラクターやストーリー、さらにギミックまで提案してくれたんですよ。「Reply」と「Remember」のふたつの曲が同じメロディを持っているのは…みたいな話も当初からあった。ブラックオニキスの設定も全員分あり、雷と乃依が育ってきた環境も決まっていて。シナリオライターの夏生さんも「はてな?」だったと思います。設定はあるのにストーリーラインはバラバラだったので。

── 夏生さんはアニメの脚本が初というのが面白いですね。

設定が相当アニメっぽいので、実写の脚本を手掛けてきた方に書いてもらったらバランスがとれるのではと考えました。それに既存のアニメーションの型を破りたい、インパクトを与えたいという意図は当初からありました。予定調和になるよりは実験したかった。それに夏生さんは監督と一緒に共同脚本の形でシナリオを仕上げていく作り方をするので、それがすごくいいなと思ったんですよ。アニメ業界はシナリオライターさんからポーンと第1稿が上がるのが通例ですが、僕は密に話しながら作りたかったし、通常のやり方ではできない気がして。その点、僕たちは夏生さんが用意したGoogleドキュメントにアクセスしてそれぞれがコメントを入れる形で進めました。業界の人ほど「それで本当に大丈夫?」と感じられると思うんですが、夏生さんが骨子を作ってくれたのでスムーズでしたよ。

── 冒頭のアパートのシーンも記号的な演出が少なくドラマが描く日常のような印象がありました。

嬉しいです。あそこは夏生さんの要素が強いですね。

── 作画も可愛らしく、たまに崩れるのも楽しいです。

崩し画って漫画的な表現で、原作ものにはよく見られるんです。『鬼滅の刃』でさえシリアスな場面でも2頭身になる。崩すことでキャラを身近に感じられるんですが、オリジナルのアニメではほとんどやらないんですよ。原作がないから。オリジナルアニメは漫画原作ものと文脈が異なるので動きも表情もリアルに演出することが多いし、崩す表現を嫌がる監督も少なくありません。でも僕自身が漫画で育ってきたので、崩しの文化に乗っかって親しみやすさを出したくて。とはいえ漫画みたいに原作者がいないのでアニメーターによって絵が変わり、ギャグ画のコントロールは難しい。なので僕がある程度統一させました。

── 崩し画の効果、合点がいきました。あと音楽面も特徴的です。VTuberのライブやボカロといった要素を取り入れたのは?

配信者が登場するということは、必然的に歌やライブをやりますよね。さらに『ONE PIECE FILM RED』でウタという歌姫にいろんなアーティストが楽曲を提供しているのを見て、ああいう巻き込み方ができたらなと。奇しくもヤチヨは初音ミクを想起させるビジュアルだし、プロデューサーがボカロP全盛期のネット文化に明るくて。そこで繋がりました。

── ヤチヨは初音ミクのビジュアルにあえて寄せたわけではなく?

これが偶然なんですよ。ヤチヨのビジュアルを考えるにあたりフジヤマから「これをつけてほしい」「ツインテールで」と言われるまま絵を描いたら、なんかミクみたいだねって。ボカロ要素は決め打ちではなくて。その後エンディングテーマを決める際、プロデューサーから「『ray』はどうですか?」と提案があり、うまくリンクして。

── 物語は壮大ですが、地球上では日常が流れていて、世界は終わらないところが面白いです。

世界を救うこともないし、AIの暴走も月に乗り込むこともない。そういうことじゃないんです。

── 善悪の二項対立がないですよね。悪い人が出てこないというか。

現実と地続きの世界ではあるので悪い人がいないとは言い切れないと思うんですが、わかりやすく悪を倒して終わる話にはできないと思いました。主人公が何かを見つけて自分の望みに気づく、という点を軸に据えているので、それ以外を描くのはやめようと。驚くほど変えてないですね、世界を。

── 監督にとって初の長編アニメですが、これまで作ったアニメ作品との違いはありますか?

いちばんはカット数が多いことですね。通常90分の劇場アニメなら1000〜1200カット程度ですが、今回は142分あったので2000カット以上はあります。監督が全カットをチェックすることはあまりないんですが、やる気が有り余っていたので全部見ますと宣言して。大変でした(笑)。

── なぜそこまでやろうと?

そういう異常なことをやらないと注目してもらえないかなと思ったんです。前の会社にいた頃、本来は絶対に投入しないであろう予算や労力を追加して勝つ、という話を聞いたことがあって。つまり誰かが既にやっているやり方で成功する可能性は相当低い。時間やお金を惜しまず注がないと勝てないんですよ。でもカットを見るのも苦労とは思わなかった。制作中はずっと楽しかったです。

Profile

山下清悟

やました・しんご 演出、作画、3DCG、撮影などを担当。TVアニメ『NARUTO -ナル ト- 疾風伝』、『呪術廻戦』第1期、『チェンソーマン』『うる星やつら』などのオープニング映像を手掛ける。今作が初の長編アニメ監督となる。

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取材、文・飯田ネオ

anan 2495号(2026年5月13日発売)より
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No.2495掲載

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