左から、イーキン・チェンさん、ジル・レオン監督、チャン・クォンウィンさん

『欲望の街 古惑仔』シリーズなどで知られる香港を代表するトップスター、イーキン・チェン主演の新作映画『ラスト・ソング・フォー・ユー』が、昨年日本の映画祭で上映された。ジル・レオン監督、音楽を手がけたチャン・クォンウィンさんもまじえて、この作品に込めた想いを伺いました。


Profile

イーキン・チェン(鄭伊健)

1991年に歌手としてデビューし、数々のヒット曲を生み出す。また、俳優としても映画・ドラマなどで幅広く活躍。映画『欲望の街 古惑仔』シリーズ(1996〜)や『風雲 ストームライダーズ』(1998)などで唯一無二の存在感で魅了し、日本にも多くのファンを持つ。

ジル・レオン(梁禮

『イップ・マン 継承』『イップ・マン 完結』『SPL 狼よ静かに死ね』『キョンシー』など、香港映画の名作の脚本を数多く手がける。今作が監督デビュー作となる。

チャン・クォンウィン(陳光栄)

作曲家、音楽プロデューサー。『風雲 ストームライダーズ』『インファナル・アフェア』シリーズ、『SPL 狼よ静かに死ね』『捜査官X』など映画音楽も多数手がける。これまでに楽曲を提供した主なアーティストは、アニタ・ムイ、アーロン・クォック、ニコラス・ツェーなど。

イーキン・チェンさんが等身大の中年男性を演じたことや、高知県でロケをしたことでも話題の香港映画『ラスト・ソング・フォー・ユー』。主人公は、ミュージシャンのセンワー(イーキン・チェン)。体調を崩し運び込まれた病院で青春時代を共に過ごした女友達と再会をするが、ほどなくして彼女の訃報を知らされる。やがてセンワーのもとに、亡くなった彼女の娘と名乗る少女が現れ…。ノスタルジックな美しい映像と音楽とともに綴られる、ほのかにファンタジー要素の漂うラブストーリーになっている。

── 三人のご関係や、この映画を作ることになった経緯について教えてください。

イーキン・チェン チャン・クォンウィンさんとは、出会ってから随分時間も経っていて、実はもう兄弟みたいな関係なんです。音楽的にもお世話になってますし、今回のように映画に関しても、いつも彼が関わってくれました。彼は香港では知らない人がいないほどの著名な音楽人です。僕が曲をリリースするときにも、必ず彼にお願いしています。

ジル・レオン監督に関しては、ちょうどコロナがまん延したときに、僕たちはどうしたらいいのかと迷っていた時期があったんです。そのときに監督が「映画を撮るぞ」って言ってくれて。僕は「こんなタイミングに映画を作ることはできるのかな?」と思って監督に「どんな映画を撮るんですか?」と聞いたら、音楽の映画で、しかもロマンチックなものになるっていうことを教えてもらったんです。そのときに、音楽がテーマだったら、チャン・クォンウィンさんを紹介しようと思いついて、ふたりが出会い、僕も関わることになってこの映画が完成したんです。

ジル・レオン イーキンさんに初めて出会ったときの第一印象はとても優しくてフレンドリーな人という感じでした。私は、彼が出ていた1990年代後半のヒット作『欲望の街 古惑仔』シリーズを観て彼の存在を知ったひとりなんですが、映画の中のイメージとぜんぜん違うじゃないですか。すごくあたたかいハートを持っていて、音楽や映画に対する考え方も真摯で、優しい人なんです。彼のおかげでチャン・クォンウィンさんを紹介してもらって、会話を重ねて、こうしていい映画を撮ることになりました。

チャン・クォンウィン 僕とイーキンが出会ったのはお互いに若かった頃なんです。彼が歌手デビューする少し前に、僕が彼の声や歌い方にアドバイスをする機会がありまして。そのとき、歌う彼を見て、誰かの真似ではない独自のスタイルがあると思ったんですね。しかも彼の声や音質には、物語を語るような魅力があると思ったんです。その後、彼は香港のレコード会社と契約することになりました。

しかも、イーキンとの仕事が僕にとっても音楽プロデューサーとしての初めての仕事だったんです。だから僕自身もかなり緊張しました。こういうキャラクターでこういう声を持っている人が、どうしたら良い表現をすることができるのか、また歌に没入できるのだろうかと考えて、彼とカラオケに行くことにしました。カラオケボックスの中で、「もっとこう歌ったらいいよ」とか、「キーのレンジをこうしたらいいよ」と技術的なことをアドバイスしたりしていました。そこから、友人となり仕事の上でのパートナーになったんです。

主人公が再会する、かけがえのない青春時代を共に過ごした元同級生を演じるのは、セシリア・チョイ。

── 今回、イーキンさんは音楽プロデューサー役でもあり、中年の危機のようなものも演じられました。それは、これまでにはない経験だったのではないでしょうか。

イーキン・チェン この作品は、僕が演じる中年の男・センワーと母と娘というふたりの女性との交流が描かれる映画になっています。しかも娘とのシーンが多いので、センワーとしては娘ほども年齢の違う若い女性との間にどのような感情が生まれ、それをどのように表現していったらいいのか考えました。しかも、この映画には不思議でファンタジックな部分もあるので、そこもチャレンジングだなと思いました。

人生は山あり谷ありで、誰でも谷間に落ちることはありますよね。自分自身にも落ち込むことはあったんですけど、その谷にいるとき、特に愛に対しての考え方をどのように表現をしていくのか、それは大きな挑戦でした。この映画で、僕の演技を見て、まさに自分のことのようだという共感を得ることができれば、僕としては満足できるかなと思いました。

── ジル・レオン監督はこれまでに『イップ・マン 継承』や『SPL 狼たちの処刑台』など、ウィルソン・イップ監督作品の脚本を手掛けてこられました。これらの作風と、今回初めてご自身が監督した『ラスト・ソング・フォー・ユー』は、全くテイストの違った人間ドラマになっています。それは、なぜなのでしょうか?

ジル・レオン まず、私自身がラブ・ストーリーが大好きなんです。それだけではなくて、音楽も大好きなんですね。普段からこうしたジャンルのものを好きで見ていたんで、自分が撮るときも、自ずとラブ・ストーリーになっていました。最初からラブ・ストーリーを撮ることは決まっていました。

── イーキンさんの若かりし頃を、アイドルグループ・MIRRORのイアン・チャンさんが演じられています。イアンさんを始めとして若い俳優との共演はいかがでしたでしょうか?

イーキン・チェン 彼と共演できて光栄でしたし、引き合わせてくれた監督に感謝しないといけないと思いました。今回の映画の中では、僕が一番キャリアがあって年長だったんですね。だから、若い人たちから刺激を受けました。というのも、若い人たちはすごく聡明で物知りなんですよ。なぜかっていうと、かつては役作りをするにしても、自分の知らないことは先生を探してきて教えてもらわないといけなかった。でも最近はYouTubeを見れば、ある程度はいろんなことを知ることができます。そうやって、自分から知ろうとする彼らの姿勢を見て、僕もいろんなアプリをダウンロードしました。彼らに触発されて、僕もいろんな語学の勉強を始めたところなんです。共演できてすごく楽しかったですよ。

チャン・クォンウィン 映画の中で、イアンがギターを弾くシーンがあるんですね。実はこのときの曲はイアンがアドリブで弾いたものだったんですよ。その姿を見て、彼には音楽を用いて物語を語る力を持っているんだということにすぐに気付きました。また、映画のエンディング曲も彼が歌っているんですが、この曲をプロデュースしながら、彼の歌唱法、音楽に対する見方、把握の仕方の能力がとても高いんだなとわかりました。だから僕が彼にこんな風に歌ってほしいと要求しても、すぐに理解して答えをだしてくれました。さきほども言いましたが、イーキンも声で物語を語るんですが、イアンにもそれがありましたね。だからこそ、観客もすぐに彼の歌に引き込まれてしまうんだなと実感しました。

イーキン・チェンとセシリア・チョイの高校生時代を、MIRRORのイアン・チャンと、ナタリー・スーが瑞々しく演じる。

── 最後になってしまいましたが、この映画の魅力をあらためて教えていただけますか?

イーキン・チェン みなさん香港映画というと、アクション映画をまずイメージされると思います。ただ、香港映画は変わってきていますし、テーマも様々に変化しているんですね。今回の作品は、バジェットとしては大きくはありません。でも、クリエイティブという側面では発見があると思いますし、こうした映画から香港映画の進化を見ることができると思います。新たな香港映画の楽しみを知ってほしいと思います。

ジル・レオン 僕もひと言だけ言わせてください。この映画はウィルソン・イップさんがプロデュースをしているわけなんですけど、私は本当に彼に感謝しています。皆さんご存じのように、これまでたくさんの香港映画が作られてきましたし、イーキンもたくさんの映画に出てきました。でも、僕自身は今回の作品がデビュー作で新人なんです。僕らのような新人が映画界で作品を撮るためには、先輩たちのサポート、協力がないとなかなかうまくはいきません。また、先輩たちの作品や行動からいろんなことを学んできたから、本当に感謝しかないんですね。これはどうしても言っておきたかったことなんです。

information

『ラスト・ソング・フォー・ユー』

監督:ジル・レオン

出演:イーキン・チェン、ナタリー・スー、イアン・チャン、セシリア・チョイ

日本公開未定

© Mei Ah Film Production Company Limited / The Government of the Hong Kong Special Administrative Region 2024 ALL RIGHTS RESERVED

写真・泉山美代子 取材、文・西森路代

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