
伊藤 九『ランチユーインザスカイ』
松本大洋さんの『青い春』を読んで「ビッグバンが起きた」という現役大学生の伊藤九さん。初連載の本作はその影響を感じつつ、みずみずしい独自の読後感を残してくれる。
きみを大空に打ち上げる。“死ぬ気”で挑む、花火作り
「映画版の『青い春』もめちゃくちゃ好きで、自分だったら青春の何を描きたいだろうなってところから、物語を考えていきました。そして鮮烈さと脆さみたいなものを表現したいと思い、花火のモチーフがちょうどよくハマった感じです」
男子高校生の南は、勉強が得意なものの志望の高校に入学できず、クラスにも馴染めないまま、鬱屈した日々を送っていた。そんななか、学校にあまり来ない喜多という謎の多い男子から“自分の遺骨を花火で打ち上げてほしい”という突然の依頼を受ける。不治の病にかかっているという喜多の「一生のお願い」に巻き込まれる形で、ふたりは花火作りに着手することに。
「高校生活がそんなに好きではない南は、自分と似ているところがあります。喜多は人物というより、青春の象徴として作り上げたキャラクターで、曖昧な部分をあえて詰めずに描きました。今思うと10代のあの頃って、学校という狭い世界でルーティンを繰り返しながら過ごしていて、ふわふわと現実感が薄かった気がするんですよね。そこに喜多っていうもっとふわふわしたやつが現れることで、現実を意識するというか、地面が近づいて大人になっていくような姿を描きたいと思いました」
花火の材料を調達すべく、夜の理科室に忍び込むなど、ハラハラするシーンはあるものの、花火作りの工程自体は意外と地味。それでも喜多のペースに振り回されながら作業に没頭する時間に、南は心地よさを覚えるように。しかし喜多にまとわりついている死の気配が、満ち足りたひとときに水を差す。
「楽しい時間を過ごしていたのに、進路指導がいきなり始まって、現実を突きつけられるみたいなことはよくあったので、こういう落差はちゃんと描かなきゃなと思いました」
花火の完成が近づくとともに、南のなかで大きくなっていく喪失感。それは彼らにとっての、青春の終わりを意味するのだろうか。
「これまでも人が死ぬ話ばかり描いてきたのですが、本当に描きたいのは生きている話なんですよね。死んだら全部終わりだと思っているので、生への執着が強いのかもしれません。今はまだ、死と対比させることでしか生を輝かせることができないけれど、いつか死を描かずに生を表現できるようになりたいです」
荒々しさと繊細さが入り交じった、今だからこそ描ける青春のありよう。そして儚くも美しい大輪の花火を、目に焼き付けたい。
Profile
伊藤 九
いとう・きゅう マンガ家。モーニング月例賞2022年9月期にて「かないさん」で佳作受賞。「つづきのつづき」でちばてつや賞入選。卒業間近の大学生。
information
『ランチユーインザスカイ』
学校になじめず鬱屈とした日々を送る男子高生・南と、学校にあまり来ない謎の生徒・喜多。花火作りを通してふたりの生が輝きを増す、キレ味抜群の青春譚。講談社 869円 Ⓒ伊藤九/講談社
anan 2480号(2026年1月21日発売)より






















