
寺地はるな『世界はきみが思うより』
寺地はるなさんによる、連作短編集『世界はきみが思うより』をご紹介します。
世界への信頼を失いかけた少年らと、彼らを囲む大人たちの優しい関係
他人が作った料理を受け付けられない高校生の冬真(とうま)と、世界各国の料理のお弁当を持参する時枝(ときえだ)くん。二人は少しずつ親しくなり…。そんな第1話から始まる寺地はるなさんの新作『世界はきみが思うより』は、人の優しさが染み入る連作短編集。
「最初は、一話ずついろんな人のお弁当が出てくる連作集にするつもりでした。食べて元気になる話ばかりでは安直なので、そうでない側面を考えた時に、第1話の主人公が浮かびました」
冬真が他人の料理を食べられなくなった時、母親は「世界が信用できひんようになったってことやな」と言う。時枝くんのほうも家庭に複雑な事情を抱えており、二人とも世界への信頼を失いかけている少年だ。第2話は、彼らが住む町の国際交流プラザに勤める紗里(さり)の話。とある出来事で時枝くんを傷つけ、冬真を激怒させた彼女は、普段は「太りたくない」という一心で食を節制している女性。この1話と2話を書き終えた時に、
「この人たちの話をこれで終わらせるのは、なんかもったいなくない? と思ったんです」
みなさんも読めばきっとそう思うはず。というわけで、一話完結の連作集になるはずだった本作は、冬真と紗里が交代で視点人物となる形式に。しかし、第1話ですでに冬真と紗里の仲は最悪である。
「この先友達にもならないだろうし、自分でもどうなるんだろうと思いながら書いていきました」
他にも、冬真を一人で育てる母親や、時枝くんの妹、彼ら兄妹と暮らす菜子(さいこ)さん、冬真の隣人の父娘や、紗里が出会う青年など、食に関してなんらかの思いや事情を抱える人たちが登場。冬真と紗里も、意外な形で再会を果たすが──。
タイトルが「世界はきみが思うより」と、言葉が途中で途切れるのは著者も、結論が分からなかったから。
「“世界は思うより悪い”という結論にはしたくなかったけれど、“悪くない”と思った翌日に“最悪だ”と思うかもしれない。やっぱり、不変じゃないんですよね。その“不変じゃなさ”に付き合っていくしかないな、って。でも、“悪くない”と思える日が多いといいですよね」
作中の彼らにとっての“悪くない”日のぬくもりが、読者の心も温めてくれるような、愛おしい一冊だ。
Profile
寺地はるな
てらち・はるな 2014年、「ビオレタ」でポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。2021年、『水を縫う』で河合隼雄物語賞、2024年、『ほたるいしマジカルランド』で大阪ほんま本大賞を受賞。撮影・山本まりこ
information
『世界はきみが思うより』
母親と二人で暮らす高校生の冬真は、他人が作った料理が食べられない。一方、毎日お弁当を作ってくる同級生の時枝くんにも事情が…。PHP研究所 1760円
anan 2480号(2026年1月21日発売)より





















