
『ヒグマ!!』主演の鈴木福さんと、内藤瑛亮監督
闇バイトVSヒグマという、気になりすぎる題材を描いた映画『ヒグマ!!』が1月23日に全国公開される。クマ被害への配慮から一度は公開日が延期となった今作では、ハラハラドキドキのモンスターパニックアドベンチャーバトルはもちろん、現代社会が抱える問題や背景も描かれている。主演の鈴木福さんと、内藤瑛亮監督に作品の魅力や撮影時のエピソードなどを伺いました。
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プロットの段階から主役は福くんをイメージ
鈴木福さんが演じるのは18歳の小山内蒼空。大学合格の通知を受け取って喜んだのも束の間、父親が特殊詐欺被害による借金を理由に自殺してしまう。お金に困った小山内は闇バイトに手を出し、さまざまな犯罪に手を染めることに。ある日、ターゲットの拉致、殺害、遺棄を請け負うことになり森の中まで連れて行くが、そこには規格外のヒグマがいた…!
── 今作の公開情報が発表されたとき、鈴木さんと闇バイトとヒグマという強烈な掛け合わせもあって大きな話題となりました。
内藤 プロデューサーに「闇バイトがクマに襲われる映画を作りたい」と言われて、「え、なんで?」と思いました(笑)。でも、同時に、期待感や、「闇バイトがヒグマに襲われる」というストーリーラインが成立したら超面白い映画になりそうだなという感触もありました。
鈴木 台本を読んでいくと、最初は「何それ?」と思っていた闇バイト×ヒグマが、ちゃんと辻褄が合う物語になっていて。すごく惹かれたし、撮影が楽しみになったのを覚えています。そして、「ぜひ主演は鈴木さんでやりたい」と言ってくださったことが嬉しかったですね。
内藤 主役の小山内は、ちょっとポンコツなキャラクターにしたいなと思っていたのですが、プロット作りの段階で福くんの印象が浮かんでいました。プロデューサー陣も配給側も、“福くんの口になる”というか(笑)、福くんじゃないと納得いかないくらいの気持ちでイメージを共有して脚本作りをしたんです。社会問題を扱いながらもヒリヒリ系ではなく、ポップというか、ちょっと笑って観られる作品がいいなと思っていて、その点、福くんであればパブリックイメージとのギャップもあるし、何か笑えるなと。何より「福くんが闇バイトでヒグマに襲われる」という日本語は、口に出して言いたくなりますからね。

鈴木 内藤監督が今作を手がけるということの面白さも感じていました。さらに冬の設定と聞いて、雪と血、白と赤が見られるんだろうな…という期待も生まれて。実際、最後の方は僕も真っ赤になりましたね。血まみれになっているシーンを撮影しているときの監督からは、すごく楽しんでいるなということがひしひしと伝わってきました(笑)。
内藤 自分ではそんなつもりはないですが、よく言われます(笑)。監督によって違うと思いますが、僕の場合、血まみれのシーンはメイクさんのそばについて、「ここはこうして」と結構細かく伝えるし、筆を貸してもらうこともあります。

── 監督から鈴木さんへ、演技に関するリクエストや、「こうしてほしい」と伝えたことはあったのでしょうか?
内藤 事前に何かを伝えるというよりは、特にコミカルな場面に関して、現場でいろいろ付け足していったような感じです。僕が思いついたことをやってもらい、その中で福くんが小山内としてボソッと言ったことが面白くて、それ使いましょう、みたいな。
鈴木 現場に入って、台本を読んでいた以上にこの映画を面白くしたり、小山内のポンコツキャラが立っていいんだということがわかって。僕も、(円井)わんさんも、“じゃあ、ちょっとやっちゃうか!”という感じでできたと思います。

隻眼に傷跡。今作ならではのクマの造形が誕生
── 現場の雰囲気はいかがでしたか?
鈴木 すごく楽しく撮影できましたね。現場で動いてくださっている方も含め、スタッフのみなさんとしっかりとコミュニケーションが取れて、過酷な撮影ではあったんですけど、常にどこかで笑い声が起こっていました。
内藤 僕と2作目3作目のスタッフが多かったので、やり取りがスムーズでしたし、和む雰囲気がありました。10m先から近づいてきているのがわかるくらい笑い声が大きい方がいて、それで現場があったまる感じもありました。あと、クマが出てくると、みんなほっこりするんです(笑)。
鈴木 ちょっと昔っぽい、海外のモンスターみたいな造形のクマが出てくる映画を作っていることへのワクワク感みたいなものも、みんなで共有していたように感じます。監督を筆頭に、映画が好きな人たちが作っているということが伝わってきて、楽しい現場でした。
── ヒグマのビジュアルは怖いですが、どこかに可愛さも感じます。造形などに関してこだわった点を教えてください。
内藤 クマ自体は引きで見れば、意外と可愛いんですよね。デザインを担当した百武(朋)さんが、「ある種アイコン化、キャラクター化したほうがいいんじゃないか」ということで、隻眼にして、体には結構な傷跡がついています。クマの背景も感じさせつつ、この映画ならではのヒグマのキャラクター性が際立つ方向を目指しました。

── ヒグマと戦うシーンの撮影はいかがでしたか?
鈴木 僕自身の大変さもありましたが、何より、ヒグマを操るチームの皆さんがとんでもない動きをしてくださっていて、本当にすごいなと思いました。実際にヒグマが目の前にいるシーンを撮っているとき、ちょっとコミカルなものになることがわかっていたものの、怖かったです。変な声を出しながら演じていましたけど恐怖心が芽生えていました。
内藤 ヒグマには、獅子舞みたいな形でふたりが入っています。そして、吐く息はベイプの煙です。作中で「9番」が使っていたもので、別のアイテムも用意していたけど、ベイプが煙の量的に一番よかった。ヒグマの前側に入っている人は、立ちながら口を動かしたり、ベイプで煙を噴出して息を吐いたりと大変。それを秒刻みでやらなければいけないので、すごく難しかったと思います。担当した後藤(健)さんはアクションコーディネーターをしている方なので、ヒグマに入りながら、俳優さんに「もうちょっとこうして」「思いっきりワイヤーを引っ張って」と指示も出していたんです(笑)。
鈴木 めちゃくちゃすごい人ですよね!
いろいろな恐怖が入り混ざる難しさがあった
── 鈴木さんはクマに襲われる場面をはじめ、恐怖心の表現をどのように作っていったのでしょうか。
鈴木 まずは、『コカイン・ベア』『レヴェナント: 蘇えりし者』、真田広之さんが主演の『リメインズ・美しき勇者たち』など、クマが出てくる作品を片っ端から観ました。現場で生まれるものはもちろんあるけれど、クマに襲われるシーンってどう見えているのかということが知りたかったんです。そして、恐怖の表現は、思いっきりやらないと伝わらないと思ったので、大きめに演じました。恐怖といっても、今作には、人が死ぬ怖さ、ヒグマに襲われる怖さなど、いろいろな恐怖が入り混じっていたので難しかったです。
今作のジェットコースター的な魅力が小山内蒼空を通じて伝わるといいな、ヒグマのキャッチーさに負けないくらい小山内蒼空というキャラクターが立てばいいなと思っていたのですが、出来上がったものを見て、ああ、よかったと思えました。脚本の時点ですごく面白かったので、それを崩さないように必死だったんです。
── 北海道の山の中での撮影は過酷だったのではないでしょうか?
鈴木 意外と雪が降りましたよね?
内藤 ロケハンは2024年の夏くらいから始めていたのですが、撮影の時期が近づくほど想像以上に雪が積もり、想定よりも雪が残った状態で撮りました。白と赤のコントラストが生まれたので結果的によかったのですが、最初にヒグマに襲撃されるシーンだけ静岡で撮ることが決まっていました。「メイン撮影場所は雪が残っているから、雪がない静岡ロケ地と齟齬が生まれちゃう」って悩んでいたんです。そこで前半の山地は雪のないところで撮れば、静岡ロケ地とも繋がると考えたんですね。ところが、静岡での撮影の日に雪が降ったんですよ(笑)。その日は撮影中止になりました。あと、崖から飛び降りるシーンは撮影当日がすごい吹雪でした。
鈴木 作品にも、ちょっとだけ雪が映っていますよね。
内藤 雪の止み間を狙ったんですけどなかなか止まなくて。この日はひたすら待って、一瞬撮って、また待つ…みたいな感じでした。

── 廃墟のシーンも印象的でした。
内藤 あの廃墟は、バブルの終わり頃に建てられたロシア村というテーマパークで、他の企画でロケハンをしたことがあったんです。予算の面と、いろいろな場面が撮れるというところで決めました。本当は7倍くらいの敷地があったのが火事で今の大きさになったそうで、映画の撮影で使われたのは始めてらしいです。
鈴木 あるシーンのとき、“きっと、ここで寝た人は僕が初めてじゃないかな?”と思いながら、バタンと倒れたのを覚えています。
内藤 吹き抜けが本当に危なくて、落下の危険もあったので、引きのシーンなど必要な部分だけ3階で撮って、クマの寄りとかは2階で撮影しました。演出部のサードが結構なドジっ子で、スタンドインをしてもらったときに木にぶつかったりする感じだったんで、3階での撮影時は吹き抜けに近づかないようにさせました。
鈴木 それまでにもいろいろあったんですよね(笑)。
内藤 その子が闇バイトの求人アプリの画面を作ってくれたのですが、福くんにアプリの説明をするときに、「鈴木さん、バイトアプリって使ったことあります?」と聞いていて。他のスタッフ全員「あるわけないだろ!」って(笑)。すごく一生懸命な子で、だからこそ面白かったです。
鈴木 そういう楽しい方たちが大勢いる、いい現場で本当によかったです!

犯した罪を背負いながらも、やり直せることを伝えたい
── ネタバレになるので詳しくは言えませんが、ヒグマのラストカットはとあるホラー映画のシーンが想起され、素敵でした。
鈴木 この映画、ところどころに、監督のやりたい演出が散りばめられていますよね。
内藤 ははは(笑)。
鈴木 たとえばですけど、絵コンテに「『エイリアン』のこのシーンみたいに」って書いてあるんです。僕が闇バイトをする時に歩いているシーンも、監督が「こういうのをするから」と映像を見せてくださって。
内藤 スパイク・リー監督がよくやる、台車にカメラと被写体を一緒に乗せて撮る手法ですね。歩いている設定なのに、ふわって浮いているように見えるというものです。福くんからすると、何をやらされているんだろうという感じでしょうが。今作は内容的に、ちょっとガチャガチャしているくらいがいいかなと思ったので、できるだけ遊びながら入れ込みました。ヒグマのラストカットもそのひとつです。

── 急に生活が一変し、闇バイトに手を出す小山内を見ていると他人事とは思えない感覚がありました。
内藤 今作を作るにあたっていろいろ調べていたときに、高校生の約4割が闇バイトらしき情報を目にしたことがあるというネット記事を読みました。手を出してしまった人の中には、大手求人サイトであったり、オンラインゲームをきっかけに声をかけられたケースもあり、多分、闇バイトだとは気づかなかったり、怪しいとは思いながらも自分は大丈夫だろうと正常性バイアスがかかっていたりするんでしょうね。
闇バイトをやることは愚かではあるけれど、だからといって一概に切り捨てられるものでもないし、社会が抱える問題と思うんです。再犯して刑務所に入った「再入者」のうち、過去に少年院送致や保護処分などの処分を受けたことがある30歳未満が、他の年齢層より多いんです。最初に処分を受けたときにきちんと更正の道を歩めていれば、新たな被害者も生まれないし、再入者にならずに済んだはずです。厳罰を求める声もありますが、罪を重くすれば解決する問題でもありません。小山内のように詐欺行為をすると口座が作りづらくなる事例があって、口座が作れないと一般的な職業にも就きづらいじゃないですか。すると再犯の確率が高くなってしまう。厳しさが悪い方向へ進んでいくきっかけになることもあると思うんです。
だから、小山内のお母さんが泣く場面をあえて入れたのです。そこだけ作品の視点が小山内からお母さんにズレます。闇バイトをすると傷つく人がいるし、一生背負っていかなければならないんだと、観客の心にきちんと刺したいなと思って作ったシーンです。そして罪を背負いながら、誰でもやり直せるということも、今作を通じて伝えたいことです。
鈴木 犯罪は絶対にいけないことなので、小山内もずっと償う道を選ぶと思いますし、罪悪感を抱えながら生きていくんだと思います。ただ、失敗をしたり、上手くいかなかった時の先にあるものが死や終わりではないし、寄り添ってくれる人がいることの大切さを感じられる作品だと思います。そして、メッセージ性はありつつも、何より楽しく観てもらえる作品だと思うので、映画が好きな人たちに、ぜひ、観てほしいですね!
Profile
鈴木福
すずき・ふく 俳優。子役としてデビューしドラマ「マルモのおきて」で注目を集める。近年は映画『カラダ探し THE LAST NIGHT』などに出演。また、情報番組「ZIP!」の木曜パーソナリティを務めるなど活動の幅を広げている。
内藤瑛亮
ないとう・えいすけ 映画監督、脚本家。映画『パズル』『ライチ☆光クラブ』『ミスミソウ』『許された子どもたち』などを製作。2月6日に公開される、ゆりやんレトリィバァが監督を務める映画『禍禍女』の脚本を手がけている。
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