金子一馬さん

一度見ると忘れられない美しくてユニークなキャラクターや世界観を描く金子一馬さん。多くのファンを魅了してやまない絵の秘密から、最新作『神魔(じんま)狩りのツクヨミ』のことまで直撃!

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    Profile

    金子一馬

    かねこ・かずま 1964年生まれ、東京都出身。『真・女神転生』『ペルソナ』『デビルサマナー』シリーズのキャラクターや世界観のデザインに携わる。数多くの画集が発売されるなど熱いファンが多いことでも知られている。2023年からコロプラに所属、“神魔画家”としても活動を行う。

    極力モノを減らして表現できることが一番の正解

    ── ゲーム業界に入ったきっかけを教えてください。

    昔から絵が上手くて、コンクールで表彰状をもらって取材を受けたり、画家の先生が家に来たりするような子どもでした。

    そこからはいろいろあって、歌舞伎町とか六本木みたいな少しヤバい話になるので詳しいことは言えませんが(笑)、20歳頃にちゃんとした仕事をしたいと思い、絵が描けるからとアニメーターになりました。ただ、全然稼げない。何百枚、何千枚と絵を描かなければ一般的な会社員の給料にならないような状況でした。

    でも、その時、一緒に働いていた人たちは、いわゆるオタクの子で、当時は「オタク」という言葉もなかったのですが、本当にいろいろなことを教わりました。僕は漫画や映画が好きではあったけど、ディープなオタクという感じではなくて。

    それから、夜7時台のアニメの放送がなくなるなど食えない時期がきますが、ちょうどファミコンが流行りだしました。人が遊んでいるのを見て面白そうだったのでやってみると自分もハマり、ゲームが好きになって、ゲーム業界に行きました。23歳の時です。

    ── 当時、どんなゲームをプレイされていたのでしょうか。

    『スーパーマリオブラザーズ』を買った時に『レッキングクルー』というパズルゲームがついてきて、そっちにハマっちゃって。どうやらパズルっぽいものが好きらしく、『ロードランナー』とか。『バベルの塔』や『ドルアーガの塔』など“塔”系も多いですね。

    あと、ナムコの『女神転生』が好きで、しかも、アニメ版の絵を描いていたんです。ゲーム会社に入ろうと決めて就職活動をしていた時、アトラスの面接で「あれはうちが作ったんだよ」と言われて入社を決めました。

    当時から神話みたいなものに興味がありました。ギリシャ神話を取り上げるゲームは多かったけど、『女神転生』はインド神話とか他にはないものも多くて、そこが良かったですね。

    ── アニメの絵を描くことと、ゲームのキャラクターを描くことには、どんな違いがありますか?

    アニメのほうは、誰かの手によって作られた、今でいうIPを動画として描くというものです。一方、ゲームはキャラクターや世界観などを含めて自分で考えて作ることができる、自分のエッセンスを100%入れられる感覚です。

    ── 神や天使、悪魔などを描く時、ビジュアルはどのようにして構築していくのでしょうか。

    ゲームのキャラクターはビジュアルの前に性質であったりそれぞれが担う役割を考えて、どう表現するかを決めていきます。また、天使のガブリエルであれば“百合の花を持っている”のように、長年踏襲されてきた描き方のルールがある場合は反映するようにもしています。

    一方で、遊んでみるケースもあって。「エゼキエル書」(旧約聖書の書物の一つ)に、4つの車輪によって移動する神が出てきますが、それを元にNASAの人が月面着陸船のデザインをしたという話が『月刊ムー』に載っているのを見て、自分もサイボーグチックに天使を描いてみようかなとアレンジにつながるとか。

    シリーズものの場合、“前回はルールを踏襲したから今回は遊ぼう”と、時どきで変えることももちろんあります。遊んでくださる人に楽しんでもらいたいですからね。

    ── デザインを手がける上で大事にしている軸はありますか?

    極力モノを減らして表現できることが、僕にとっての一番の正解です。「赤い髪がこうなっているやつ」みたいに、キャラクター性を共有できる一つのポイントがあるといいますか。最初の頃は、ゲームキャラクターのセオリーを一生懸命真似ようとしていたけれど、途中で意味がないと気がついて。

    ファッションブランドのショーを見て、“服にこういうアレンジをすることでこのテーマを表現するんだ”と学ぶこともあるし、デザインが生まれるきっかけはどこに転がっているかわからないですね。

    ── 色彩も独特です。

    神秘的なものをグリーンで表現する国があるなど、日本と海外では色の捉え方が違うことも多く、いろいろ知って参考にしたいなと。他との差別化も狙っていました。

    ── 作風が定まったと感じるようなタイミングはありましたか?

    デザインの一点に関して言えば『デビルサマナー』のあたりは、思いっきり我を出してもいいかなと考え始めた頃です。ちょうどコンピューターのスペックが上がった時期で、いろいろな表現ができるようになったことも関係しています。

    変な話ですが、最初の頃はまずドット絵でキャラクターを描き、その後に設定画を作っていたんです。自分が勝手にやっていることだから、上司に画材が欲しいと言えず、マーカーで一生懸命描いていましたね。その行動が徐々に認められ、ついにMacで描けるようになったんです。ずっとコンピューターで絵を描くことを先駆け的にしたかったから嬉しかったですね。

    『デビルサマナー』の頃はMacでしたけど、今みたいにサクサク動かず、タスク待ちの間にラーメンを食べたりしてました(笑)。『バーチャファイター』が2~3回できましたよ。

    ── 『デビルサマナー』は世界観も含めてスタイリッシュです。

    僕は1970年代のドラマや、(ジャン=リュック・)ゴダールなどの映画が好きで、ファッションや仕草を真似していた世代。それをゲームに入れてみようと思って作っています。ちなみに『ペルソナ』は、自分が学生時代に経験した怖いことを入れ込んでみました。

    ── 金子さんが携わる作品にカルチャーの薫りがする理由がわかった気がします。さまざまなお仕事をしてきたなかで印象に残っていることはありますか?

    キャラクターデザインは、本質的にはビジュアルより中身が大事なので、一生懸命考えるんですけど。こいつ、すごく嫌なやつだなと思うキャラクターほど、人気が出るから不思議だなと思ったことがあります。

    たとえば『女神異聞録ペルソナ』の南条(圭)くんは、典型的な嫌なやつの要素をてんこ盛りにして、少し面白おかしくしたところ、「共感する」というお手紙をたくさんいただきました。

    ── 多面的だからこそ魅力的であり、キャラクターにリアリティや立体感が生まれているようにも感じます。それは街でいろいろな人に出会ってきたことにも関係あるのでしょうか。

    学生時代に夜遊びしていた連中は変な子が多くて、彼らをマイルドにして描くと、面白いキャラになっていきますよね。ただの嫌なやつにならないようにする、というところまで深く掘り下げて作らなければ、人物が表面的になりやすい。そして、可愛げがあることが大事だと思います。

    ── 今年5月には完全新作ローグライクカードゲーム『神魔狩りのツクヨミ』がリリースされました。金子さんが描いた絵柄を学習させたAIである「AIカネコ」が、プレイヤーの行動をもとに唯一無二の絵柄のカードを生み出す「創成札」システムが大きな特徴です。ご自身の絵をAIにラーニングさせるという経験をどのように感じましたか?

    生成AIを使うことに関してはまったく抵抗がないどころか、むしろやらなければいけないと思っていたのでよかったです。今作のために20何枚か描いてそれらをもとにラーニングを重ねました。

    AIが作り出した絵は、ものまねタレントが真似をしているのと似た感覚で、“俺の絵ってこう見えているのね”と思いました。コロッケさんの誇張モノマネ的な感じ(笑)。面白い経験でした。

    当たり前だけど自分が描いたほうがまとまりがいいし、AIは僕がこれまでに描いたものしかラーニングできないので、今日の僕が今持っているアイデアで描く絵には絶対にならないと気づきました。

    一方で、背景とかを勝手に作ってくれるのは楽ちん。“そうか、こういうふうに描けばいいのか”と思うこともありました。

    ── 今作はタワーマンション「THE HASHIRA」を舞台に、「神魔札」というカードで戦力を強化しながら敵とバトル、最上階にいるターゲットの討伐を目指すという内容です。

    就活してコロプラに入りましたが、何を作るかを考えた時に、自分の得意なロールプレイングゲームにしようと思い、『神魔狩りのツクヨミ』の世界観が生まれました。

    本当はもっと大きなタワマンのイメージだったんです。映画『ジャッジ・ドレッド』のリブート版に出てくるやつみたいな…という話をしていたら、AIを使ったカードゲームを作りたいと言われて、このような形になりました。

    ── 就活をされたことが驚きです。

    エージェントに登録をしましてね。自分と似たようなキャリアの人はたくさんいると思うので、そうしたみなさんが活躍できる場所を作っていけたら、その人たちの糧になるような発信ができたらなとも思っています。

    ── ちなみに今好きなものはありますか?

    K-POPです。若い頃からディスコに行ったりと、ずっと洋楽が好きだったのですが、2018年くらいからランキングにBLACKPINKとかが入り始めて、カッコいいなと思って興味を持ち始めました。NCT Uとかね。たしか「Make A Wish」という曲でメンバーがグッチのアイテムを着ているのを見て、ハイブラすごいな、カッコいいなと。歌番組のたびに違う格好をしていて見ていて楽しい。

    ファッションもだし、アイソレの練習もめちゃくちゃやるそうですが、パフォーマンス力もすごい。礼儀正しいですしね。この間、20年ぶりくらいに写真を撮ってくださったカメラマンの方に「口調が優しくなりましたね」と言われましたが、それは多分、K-POPのみなさんのおかげです(笑)。

    ── スマホゲームもお好きだとか。

    ここ最近は、蜘蛛みたいなエイリアンが人を食べる『エイリアンの侵略』をやっています。でも、面白そうだと思ってダウンロードしたらまるで違うゲームなことが多くて(笑)。お母さんが寒そうにしているのを助けるやつもそう。でも、ついついやっちゃうゲーム、というのは大事なことだと思います。

    ネジを外すゲームも楽しく遊んでいますが、同じ要領で、『神ツク』の十六夜月のマスクが外れるようなゲームがあったら面白いかな? とか、遊びながらもいろいろ考えてはいます。

    ── 最後に、これからやってみたいことを教えてください。

    特にこれ! というものはありませんが、カッコいい言葉で言うと、世の中にしなやかに合わせていくといいますか。スマホ向けが流行っていればそちらに乗っかり、やっぱりコンシューマー版がいいというのであれば、そちらに移っていくという感じで、これからも作品をどんどん出していけたら、というふうに思っています。

    金子さんの世界観を堪能できる最新作『神魔狩りのツクヨミ』とは?

    『神魔狩りのツクヨミ』/(PC(Steam) / iOS / Android対応。基本無料。詳しくはこちら Ⓒ COLOPL, Inc.

    今年、金子さんが創造&AI技術を取り入れた新たなローグライクカードゲームが誕生! 『神魔狩りのツクヨミ』は戦闘スタイルが異なる複数の主人公を操り、遊ぶたびに構造や展開が変化するダンジョンに挑戦、舞台となるタワーマンションの最上層にいるターゲットの討伐を目指すというゲーム。

    探索中に発生するイベントでの選択をもとに、金子さんの絵をラーニングさせた「AIカネコ」が、敵とのバトルで使うオリジナルの神魔札を生成するところが最大の特徴に。

    ゲーム内に登場する画家Kは金子さんをイメージ。果たしてどんな役割を担っているのか? 今回の撮影も画家Kの姿で行った。

    プレイヤーにメリットとデメリットの両方を与える可能性がある「ツキモノ」。金子さんはこうした可愛いキャラクターも得意だ。

    左/主人公の一人、新月のツクヨミ。右/主人公を助ける金鵄の武内むつ。いずれも一目で金子さんのデザインとわかる存在感だ。

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    写真・内田紘倫(The VOICE) 取材、文・重信 綾

    anan 2473号(2025年11月26日発売)より
    Check!

    No.2473掲載

    カルチャーを感じる、ゲーム案内2025

    2025年11月26日発売

    川村壱馬さんのゲーム愛インタビュー、大ヒット作『都市伝説解体センター』の魅力解剖、可愛いドット絵ゲームが人気の「カイロソフト」紹介、ボドゲからTRPGまで取り上げたアナログゲームガイドなど、今回もゲームの楽しさと魅力をたっぷりとお届けします。

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      先負

    身の回りの事柄をはじめ、頭の中や心の中を整理する時間が必要な日です。続けてきたことに一区切りつけ、ぼんやりと次に何をしようかと思いを巡らせたり、ゆっくり休んで英気を養うのもありです。功を焦らず、自分のペースを思い出しましょう。おうちの片づけでもしながら、今後について広めの視野で考えてみるとよさそうです。

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