中世ジョージア王国、一族の使命を負った“奸臣(かんしん)”の選択。
「コーカサスはイスラム教世界とキリスト教世界の交差点といえるようなところで、モンゴル帝国について調べる過程で興味を持つようになりました。外からの影響が強いけれども独自の文化もあって、その背景が特殊で面白いと思ったのです」
物語は、ジョージア王国のスィウニク領がモンゴル帝国に包囲され、その領主であるスムバトたちが、敵に寝返ろうとする場面から始まる。
「スムバトは実在した人物で、ジョージアとモンゴルに二重に仕えて、うまく渡り歩きました。この時代、同様の選択をした領主は結構いたようなのですが、彼は非常に頭が良く、5か国語を話すことができたそうです。物事に対して柔軟な姿勢を持ち合わせていたのだろうなと想像を膨らませて、少年時代から好奇心旺盛な人として描いてみました」
スムバトはなぜ敵に寝返るのか。1巻では、田舎貴族である一族の秘密が明かされるのだが、各地の領主が次々と王家を見限るもうひとつの理由として、美貌で名高い女王ルスダンの無能さも大きかったようだ。
「ルスダンは年代記にも、愚昧な女王と書かれてしまっているのですが、威厳がありつつどこか抜けているような、愛らしいキャラクターにしたいと思いました。ほかの作品にもいえることですが、世間的な評価が低くても、一生懸命生きていたんじゃないかなと思える部分のある人物に興味を引かれるんです。表の世界で苦労なく生きた人よりも、日陰に入ってしまった人のほうが見える世界が違って、いろんな側面を描けるかもしれないという期待もあります」
日本で入手できる資料は、かなり限られているコーカサスの歴史。今作でも綿密にリサーチをしたうえで、史実とフィクションを融合させて、知的好奇心をくすぐってくれる。
「当時のコーカサスでは恋愛詩が発達したので、その辺りにもテーマを広げていきたいです。恋愛そのものというより、恋愛の功罪というか恋愛詩に左右される人の心を描いてみたくて。あとはやっぱりスムバトが、ジョージアとモンゴルの間で自分の領地を守ろうとすることで、タイトル通りの人物になるのか、楽しみにしていただけると嬉しいです」
PROFILE プロフィール
トマトスープ
マンガ家。中世~近世の世界史をテーマとした歴史マンガを制作。著作に『ダンピアのおいしい冒険』(全6巻)、『天幕のジャードゥーガル』(既刊4巻)。
INFORMATION インフォメーション

トマトスープ『奸臣スムバト』1
13世紀半ば、モンゴルの襲来に揺れるジョージア王国で、田舎貴族オルベリアン家の次男として育ったスムバトの使命、そして生きる道を描く、壮大な叙事詩。新書館 825円 Ⓒトマトスープ/新書館
anan 2441号(2025年4月2日発売)より