――約2年半ぶり4枚目のアルバム『LEGION』がリリースされました。今の率直な気持ちをお聞かせください。
R-指定(以下R):キャリアとして最大の曲数、かつ自分らでもホンマに自信のある曲ばかりの作品ができましたね。「二人の武器」をとにかく進化させたアルバムになったと思う。
DJ松永(以下M):ファーストアルバム感があるよね。
R:ニューファーストアルバム……。そんな言葉ないか(笑)。
M:でもまさにそうだね。新しいスタートが切れた。今回は制作に集中する期間がもらえたから、トライアンドエラーを重ねて、新しい発明をどの曲でもできたし、それが自信にも繋がってます。
R:去年から、よりひたすらライブと楽曲にだけ向き合うことができたんで、その間の自分たちをドキュメントする作品になりました。
M:ラップもトラックも、とにかく「これまでにないもの」を目指したし、全てにおいて……いや、これ以上話すと自画自賛になっちゃうな(笑)。
R:したらええがな(笑)。このアルバムから俺らの作品を聴き始める人にも、これまでもずっと聴いてくれていた人にも、しっかり今のCreepy Nutsが届けられるような、本当にどこに出しても恥ずかしくない、これを持ってどんな場所にでも行ける作品になりましたね。
――昨年は「Bling-Bang-Bang-Born」など、世界的なヒット曲も生まれました。
M:まったく予想もしてなかったし、「世界に届くもの」「これが流行る」みたいな感覚がまったく当てにならないことが、改めてわかりました(笑)。
R:主題歌なんで歌詞にモチーフはありつつ、基本的には「俺すげえ!」というセルフボーストや、「俺はこう思う」みたいなパーソナルな部分も強い。だからこそ自分のクセや個性も出てるし、それが世界でも受け入れてもらえるとはまったく想像もしてなくて。
M:自分たちが作り甲斐のある曲を制作し、そのクオリティをとにかく上げていくのが正解なんだと再認識しましたね。
――昨年はアメリカや香港など、海外ライブでも活躍されましたね。
R:海外でのライブは、最初は必要以上にビビったり構えたりしてたんですけど、最近はワクワクのほうが勝ってます。言葉が通じない人が多い分、音とかノリをダイレクトに受け止めてくれて、それを熱量とかバイブスで応えてくれるので、こっちも高まるし、楽しい。
M:自分たちもフィジカルなライブになってると思うし、それがいいんじゃないかなって。
――それらの曲が収録されたアルバム『LEGION』ですが、このタイトルの意味は?
R:俺は常に何人ものいろんな自分が頭の中で会議してて、混乱してて、ぶつかってるんですよね。それをテーマに収録曲「doppelgänger」では、自分の持ってる複雑さや多様性、ひいては聴いてる人も持ってる多面性みたいな部分を書いたんですけど、その流れで「俺自体がCREW 俺自体がSQUAD」っていう「LEGION」の歌詞が生まれて。それで「この状況、『ガメラ2 レギオン襲来』の怪獣レギオンみたいやな」って。
――レギオンは母体と無数の小型個体で構成される怪獣ですね。
R:まさにそれが自分やし、アルバム自体、とにかくいろんな自分を表現した作品になったんで、「アルバムタイトルも『LEGION』は?」「それだね」みたいな。
――ラップもトラックも、それぞれ一人で作っているとは思えないバラエティに驚きます。
M:「このアルバム、2つの脳みそだけで作ってるとは思えないよね」ってずっと話してましたね。それぞれが一番何でもできる状態こそ、「二人で曲を作ること」なんですよね。純粋に二人で作ることが、Creepy Nutsの自由度と強度が担保される体制だなって。
――全体的に、互いの現在地点をぶつけ合った作品だと感じました。
R:子どもが生まれたことや、その自分についてどう考えているのか、そういう自分の内面を改めて書きたかったし、「ラップの初期衝動」にまた戻ってきたと思う。
M:今回はお互いに作業部屋にこもって、ひたすらラップとトラックを投げ合ったり、それぞれがブラッシュアップする作業がメインだったんですね。顔を合わせるのはライブとか、海外で空港からライブ会場に向かう道中とか。だから、曲でRの近況報告をめっちゃ聴きたかった。
――Rさんは「二度寝」のような普遍的に大切なメッセージから、「ちゅだい」のように「なぜそんな話を……」という話まで、内容もスタイルも距離感がすごい。
R:その全部が俺なんですよね。いろんなイメージを持たれたりして、「良いこと」しか言えなくなるのはちょっと怖かった。自分なんかまったく褒められた人間じゃないし、見本にしたらあかんことばっかなんで。だからその部分も出すし、でも、そんな奴が自分を棚に上げて、いい感じのことを言うのもええんかなって。そして、自分の子どもにも前向きな言葉を伝えられればなと思いましたね。
――松永さんのビートは、これまでよりもシンプルな強度を肝にしていますね。
M:キックとベースだけの曲を作りまくってる時期があったんですよね。そうすると、根本のクオリティが上がるというか、芯がクリティカルなものになる。そのストイックな感じは、勉強になったし、成長に繋がりましたね。
――話は変わりますが、今号のananの特集テーマは「最先端の暮らし」です。最近“最先端”だと感じたことはありますか?
M:DTMのプラグインとか音楽機材の最先端は常々研究してます。あと、「もうちょっとわかりやすく進化してもいいよね?」みたいなのあるじゃん。電子レンジとか。
R:あ~。ドリアとかちゃんとあったまらんよな。
M:そう! お弁当とか適温が難しい。だから、最近は業務用の電子レンジをネットでチェキってて。コンビニにあるようなハイパワーのものを導入してやろうかと。
R:僕の最先端はやっぱり自分の子どもですね。身近にいる人間の中でも、どんなに新しく登場するアーティストよりも、「こいつ、最先端すぎるやろ!」と感動することばっかり。
M:いま一番新しい?
R:ホンマに。俺の言ってることや行動、考え方はもうこいつらにとっては古き悪しきものになってくんやろうなと。子ども自身も日々ブランニューやろうなと思いながら接してますね。
M:俺の家の停滞感はヤバい。空気が止まってる(笑)。
R:淀んでる?
M:固まってる(笑)。
――最新猫ちゃんグッズとかは?
M:自動トイレも買ったんだけど使わなくて、結局自分で掃除してる。掃除といえばロボット掃除機買ったわ。
R:最先端やん。
M:でも結局ずっと家にいるから、自分で掃除したほうが早い。ロボットが動くのを見て「もっと早く掃除できるよね! 俺ならこうするね!」って自分でやっちゃう。
――掃除機にマウント(笑)。
R:俺は童謡が流れるYouTubeを子どもと一緒に見てるんですけど、海外の童謡チャンネルは、童謡をラップアレンジで歌ったりしてるんですよね。しかもビートもTrapとかDrillみたいな、俺らにとっては先端に感じるものだったり。それが子どもにとってベーシックになるんやなって驚きます。
M:音楽体験がラップから始まるんだ。
R:そうそう。犬のキャラクターの声優をスヌープ・ドッグがやってて、子どもワンちゃんにラップを教えるみたいな。そこから最先端のラッパーもどんどん生まれてくるんやろな。
M:ヒップホップの国民的スターがいるのは大きいよね。
――20年後はCreepy Nutsがその役割かもしれないですね。さて、2月11日にはドーム公演が行われ、今後は全国ツアーとアジアツアーが待っています。
M:これからも曲作りとライブに集中すると思います。休んだほうが精度の高いものを作れるんで……とは言いつつ、今年も元旦から曲作りしてたからね。紅白終わって、帰って、寝て起きたらすぐ制作(笑)。
R:ムズいんですけど、休んでるうちも曲を作ってるんですよ。マイクに向かったら、DTMに向かったら曲ができるというものでもないんで。だからライブに集中しつつ、休んで、曲を作るという生活の中で、ちゃんと期待に応えられる作品を作りたいですね。
PROFILE プロフィール

Creepy Nuts
クリーピーナッツ MCのR-指定、DJのDJ松永によるヒップホップユニット。2013年より活動開始。2月11日に東京ドーム公演を成功させ、3月12日にニューアルバム『LEGION』をCDリリース。今後は全国ツアーとアジアツアーが控える。
DJ松永さん・ジャケット¥145,200 フーディー¥88,000 パンツ¥67,100(以上ストーンアイランド/ストーンアイランドジャパン TEL:0120・988・943) その他はスタイリスト私物
写真・森山将人(TRIVAL) スタイリスト・安本侑史 ヘア&メイク・藤井陽子 取材、文・高木“JET”晋一郎
anan2438号(2025年3月12日発売)より