北村匠海「演じられるのは彼しかいないと思った」 主演・萩原利久と語る初監督作品

エンタメ
2025.02.10

左・萩原利久さん、右・北村匠海さん

北村匠海さんの初監督作品『世界征服やめた』で主人公を演じる萩原利久さん。俳優仲間として切磋琢磨してきたふたりが、監督・俳優という新たな関係性の中で交わした想いとは?

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監督・北村匠海×俳優・萩原利久

短編映画『世界征服やめた』は、北村匠海さんが「人生を変えてくれた」と語る楽曲を原案に、自ら企画・脚本・監督を手掛けた作品。世界に自分の居場所を見つけられない主人公・彼方を、北村さんの俳優仲間でもある萩原利久さんが演じている。

――作品を作る上で、友人関係だからこそ難しかった点はありますか?

北村:僕は監督という立場が初めてなので、難しさもやりやすさも正直わからなくて。でも、彼を撮るのはただひたすら楽しかったです。それは友達だからではなく、萩原利久という役者を信頼していたから。彼方という役は言葉で語る人物ではないぶん非常に難しいのですが、それをできる同世代の役者は彼しかいないと思ったんですよね。なので、利久、(藤堂)日向、井浦(新)さんというキャストを決めた時点で僕の仕事はほぼ終わったとすら思いましたし、あとは彼と日向のやりとりや、現場で生まれるある意味“事件”のようなものをキャッチしていくのが楽しかったです。

萩原:僕は友人としても、俳優としても、アーティストとしても北村匠海という存在が好きなんです。そこに監督というものが加わって自分が参加できたことは、この上なく幸せでした。もちろんプレッシャーは0ではなく、脚本を読んで彼に試されていると感じる部分も。でも僕自身が役柄を通じて言葉の持つエネルギーを考えてきた人間なので、それが活かされた現場だったなと思います。匠海は僕を信じていると言ってくれたけれど、僕も同じくらい彼を信じていて。そうじゃなきゃ、現場入りしてすぐに本番が始まるっていう撮影方法はできなかった(笑)。

北村:当時はこれが自分のスタイルだと思ったけど、無謀だよね(笑)。

萩原:僕らは演者として感性が近い部分があるから、現場で交わす言葉が少なくてもニュアンスを限りなくジャストでつかめる。そういった意味では、僕以上に適した人間はいなかったんじゃないかな。

北村:もしまた監督をやるとしても、同じ手法では撮れないと思う。利久と日向だから交わせた言葉だった。

――北村さんにとって意味深い作品ですが、伝えたいメッセージに関してどのように話し合いましたか?

北村:自分の想いを言語化して伝える作業はしましたが、利久にはあえて言わなかった部分も。現場で日向が投げる言葉を、利久がどう受け取るかを大事にしたかったんです。ふたりには本読みの時にキャスティングした理由を伝えたのですが、それによって感じ取ってもらえる部分もあったんじゃないかと思っています。

――その想いを観客に伝えるために萩原さんが心がけたことは?

萩原:今回の役に関しては、日向くんが演じる星野をどこまで漏らさず受け取れるかに尽きると思っていて。日向くん、匠海、そして自分を信じて、キャッチしたものを素直に返す。その作業に全ての集中力を動員したと言っても過言ではないくらい。なので、僕ら演者が一切余計なものに触れずに本番に行ける環境を匠海やスタッフの皆さんが作ってくれたことがありがたかった。あの鮮度での芝居は、後にも先にも経験できないかもしれないなと感じています。

北村:題材になった楽曲を作った不可思議/wonderboyさんが“瞬間”を生き続けた人だったんです。なので、段取りやテストをしてベストな芝居をすることがこの作品の正解ではない気がして。それより、“ふたりにそこで生きてもらおう”と思ったんです。ただ、最初の観客である僕が本当にいいと思ったものにしかOKを出していないので、やっぱりお互いへの信頼がなかったら進んでいかなかったんじゃないかな。

――俳優・アーティスト・監督と様々な表現方法を持つ北村さんにとって、伝え方の違いはありますか?

北村:明確に違うのは、自分の言葉であるか否かという点ですね。役者は誰かの人生を背負い、誰かの言葉を借りて存在している。だから役者として想いを伝えるには、作品の中でどれだけ生きられるかが重要で。映画全体が持つ答えに、自分というパズルのピースをどこまで完璧にはめられるかを俯瞰で考えています。一方、音楽は超主観的。自分が書いた言葉を目の前にいる人に投げて、すぐに答えが生まれる。計算式としてはシンプルだけど、そこには膨大なエネルギーが必要なんです。そして、これら全てが合体しているのが監督業でした。俯瞰性も主観もどちらも必要で、想いを伝える上でのいろんなベクトルが合わさった表現方法だなと感じています。

萩原:いくつもの伝え方を持っているのは、匠海の最大の強みだね。“初めてなのに、なんで当たり前のように監督業ができるんだろう?”と不思議だったけど、主観や俯瞰性を言語化した今の話を聞いて腑に落ちたかも。いい時間に参加させてもらったなとつくづく感じるし、今この瞬間にこうやって匠海の作った映画の取材を受けているのも、すごく不思議で楽しいなと思いました。

INFORMATION インフォメーション

映画『世界征服やめた』

ポエトリーラッパー・不可思議/wonderboyの楽曲が原案となる短編映画。無力さを感じる会社員の彼方(萩原利久)と飄々とした同僚の星野(藤堂日向)の人生の選択を描く。2月7日公開。

萩原さん シャツ¥57,200(フルス info@f-l-u-s-s.com) パンツ¥49,500(メイカム info@maykam.jp)

写真・谷口 巧 スタイリスト・Shinya Tokita ヘア&メイク・カスヤユウスケ 佐鳥麻子(北村さん) 取材、文・真島絵麻里

anan 2433号(2025年2月5日発売)より

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