騙される快感がクセになる!? 大胆不敵な双子の“地面師”が暗躍する『オッドスピン』

エンタメ
2024.07.17
地面師という存在をご存じだろうか。土地の所有者になりすまし、金を騙し取る詐欺師なのだが、菅野カランさんは演劇が好きで、本作『オッドスピン』のアイデアもその流れで思いついた。

クールでかわいくて、大胆不敵! 「地面師」になった双子が暗躍。

菅野カラン オッドスピン

「演じることや嘘をつくことについて考えるのが好きで、詐欺師にも興味を持っていました。いろんな詐欺があるなかで地面師にしたのは、お金は隠したり、移動させたりできるけど土地はそうじゃない。なのに人間が“持つ”という感覚が不思議だったから。2017年に五反田で大きな詐欺事件が起きて、結構ニュースになったのですが、そのスケールに衝撃を受けたのもありますね」

地面師として暗躍するのが、「英(えい)」と「蛍(けい)」という双子。ふたりの母は土地を騙し取られた過去を持つのだが「なんとなく面白そう」という理由で、母を騙した人物の後を継ぐ。

「善い行いを完遂することって、モチベーションのあり方としては単純といえますが、詐欺のような悪いことは、最初から最後までどうやってモチベーションを保ち続けるのだろうと思って。モチベーションを保つエンジン担当と、手を動かすハンドル担当に分業することによって、ひとりだとくじけてしまいそうなこともできる気がして、双子がピタッとハマったんです。同じ場面の心境を2種類の表情などで見せられるので、描くのが楽しいですね」

1巻では廃墟同然のビルを売却する側になりすまし、2巻では建設中のショッピングモールの一角に残る“母の土地”の謎に迫る。双子にそそのかされてチームを組む歯科衛生士なども含め、ゲーム感覚で詐欺を働いていく姿が印象的だ。

「別の欲望を持った人が、たまたま噛み合って行動を起こすっていう形を描きたいんです。私たちって被害者の気持ちには寄り添えるけど、加害者のことは自分と切り離して考えがちですよね。そうではなく、加害者を地続きの存在として捉えることが大事だと思っていて。意外と軽い気持ちだったり、金額の大きさは重要視していないんじゃないかな、などと想像しながら描いています」

マンガの表現として一般的な、登場人物の心理を描写するモノローグや、状況説明をするナレーションがほぼ出てこないのも、演劇の影響を受けた菅野さんの作風。読者もセリフや表情から真意を探り、展開を予測するスリリングさを味わえる。

「セリフが好きなので、間違っていることを言っていたり、嘘をついていたり、言いたいことをためらっているようなときも、自然なセリフだけで表現したくて。難しいけど、つい頑張ってしまうところですね」

大胆不敵な双子に振り回され、騙される快感がクセになる。

『オッドスピン』2 双子だけど性格は少し異なる「英」と「蛍」。2巻では、気になる母親など新キャラも登場。“怪しい土地”を巡って双子のルーツも垣間見え、新たなドラマが展開。講談社 759円 ©菅野カラン/講談社

かんの・からん マンガ家。2022年、第80回ちばてつや賞一般部門佳作受賞作「かけ足が波に乗りたるかもしれぬ」が話題に。本作で連載デビュー。

※『anan』2024年7月17日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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