『扉の向う側』はヤマザキマリさんが出会ってきた、忘れがたい人々との関わりを綴ったエッセイ集だ。

思い通りにならない同士が共生する。美しくノスタルジックなエッセイ集。

Book

「14歳のときに初めてひとり旅。ブリュッセルからパリへ向かう列車の中でマルコ爺さんと知り合わなければ、そもそも17歳でイタリア留学していないかもしれないし、彼の孫と結婚していないかもしれない。私の人生観や生き方は、偶然知り合ったりすれ違ったりしてきた人たちとの関わりによってできたと言ってもおかしくないです」

親切で実直なカメオ職人とその夫人、90歳を越えてなおアグレッシブにつばぜり合いをする夫の父方・母方の両祖母、日本行きの飛行機で知り合ったブラジル移民一世の老人、ナポリ愛をとうとうと語った子だくさんのタクシー運転手等々、ヤマザキさんの記憶に深く刻み込まれている人々はみな国際色も個性も豊か。本書は地球人カタログのようだ。

「ボランティアで訪ねたキューバで15人家族の家に居候した話も書きました。お金が一銭も動いてないのにこんなに幸せになれるんだというのは、そこで知ったことです。常々、私の本は全部“縁があった人の観察事典みたいなもの”だと言っていますが、実際、観察学的視点で書くのが私のエッセイのパターンになっていますね。意識しているわけではなくて、自然とそうなってしまう。実はかなりの人見知りなんですが、こういう人と会いたくないとか、これは私に必要ないとか、そういうのはまったくなかった。袖振り合った人とは、絶対に何か縁がある、意味がある、と思う質(たち)で」

また、多くの日本人が安易にイメージするイタリア人――恋愛と美食を楽しむ国民性とは違う、彼らの地に足がついたさまも興味深い。

「須賀敦子さんがお書きになられてきた世界に少し近いものがあるように思っています。不条理な世界と向き合う中で深い思索を重ね研ぎ澄まされた知性を持つ、穏やかで静かなイタリア人もいるのです」

微笑ましかったり、ユーモラスだったりする各回の挿絵もすべて、ヤマザキさんの手による。それらに命を吹き込むのはやはり人との縁だ。

「私の絵って実は人格主張がないというか(笑)、ストーリーに合わせた絵を描くんです。忘れられず、ずっと私を幸せな気持ちにさせてくれる人ってやっぱり人生の財産だなと」

ヤマザキマリ『扉の向う側』 エジプト、シリア、ポルトガル、米国と移り住みながら、再びイタリアと日本に拠点を置くヤマザキさんの記憶に刻まれた人々。マガジンハウス 1760円

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ヤマザキマリ 漫画家、文筆家、画家、東京造形大学客員教授。1967年、東京都生まれ。17歳でイタリアに渡る。『テルマエ・ロマエ』『プリニウス』ほか著書多数。2016年、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

※『anan』2023年11月29日号より。写真・山崎デルス(ヤマザキさん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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