ジェンダー規範は、人間の可能性を潰してしまう。
「故郷にある小学校を訪れた際に当時の思い出が蘇った。女々しいとからかわれることが多かった僕は、思春期を迎えると男友達との交友に不安を感じ始めた。自分自身のことが怖くなったし、友情の親密性にも怖気づいたんだ。突き放した友人もいて、罪悪感や怒りが長らく僕について回ったよ。映画を通して当時の不安を探求したいと思ったし、同じ思いを心の奥に隠した人たちの目を覚まさせたい気持ちもあったよ」
心理学者ニオベ・ウェイの調査やイーユン・リーの著作『理由のない場所』にも触発された監督は、前作で組んだアンジェロ・タイセンスと共同で脚本を執筆。縦社会の縮図である学校での振る舞い方を覚えるレオと自分を貫くレミの両方に監督自身を投影させ、思春期の少年の心模様を繊細に描き出している。
「思春期になると自分の性を意識し始める。生まれ持った身体的特徴によって期待される“らしさ”というものがあり、それに応えなければいけないと思い込んでしまう。男らしさの概念はとても旧弊なものだし、家父長制的な考えから発生したことが理解できる大人になってようやく、“らしさ”の呪縛から解放されたよ。ジェンダー規範は、人間の可能性を潰す考え方だと思う。だから、ありのままの自分を受け入れようとするムーブメントが世界各国で起きているのが喜ばしい。映画のセットで若手俳優が互いに優しく接するのを間近で見て、“らしさ”に対する考えが変化しつつあると感じたよ」
レオとレミを演じる若手俳優は、本作がデビューだ。レオ役のエデン・ダンブリンは、監督が電車内で見かけて声をかけたそう。
「表情に魅せられて、オーディションに誘った。オーディションではレミ役のグスタフ(・ドゥ・ワエル)ともども、〈世界でいちばん好きな人〉という質問に互いの名前を書いてきた。選ばれるためだけど、賢いよね(笑)。それに二人の間に漂う親密さと緊張感がとても重要だった。演技経験がないから型にはめず、自由に演技をさせることで彼らの創造性を守ることに気を配ったね」
受賞は逃したものの、アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた本作でドン監督の評価はさらに上がっている。準備中の新作は大人が主人公とのことで、監督としての円熟味を増した物語が期待できそうだ。
『CLOSE/クロース』 監督・脚本/ルーカス・ドン 出演/エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル、エミリー・ドゥケンヌ、レア・ドリュッケールほか 7月14日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。© Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022
ルーカス・ドン 1991年、ベルギー生まれ。長編監督デビュー作『GIRL/ガール』(2018)でカンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)はじめ多数の賞を受賞し、新進気鋭の若手監督として注目を浴びる。
※『anan』2023年7月12日号より。写真・大野隼男(L MANAGEMENT) ヘア&メイク・久保マリ子 インタビュー、文・山縣みどり
(by anan編集部)