「これまで自分の成長段階に合わせた現実社会の話を書いてきましたが、このままでは限界がくるという危機感がありました。今僕に足りないものは“フィクション”を書く力だと考え、一回、制約を設けず自由に書いてみることにしたんです。そうしたら宇宙とか国とか旅とか…大きなテーマが出てきました」
舞台は架空の世界。山間にあるその土地には巨大な〈木〉が聳(そび)え立っている。流れ星が落ちた場所に生えたという伝説を持つその〈木〉は、枝の上に街が作られるほど巨大だ。章が進むごとに数百年以上の時が進み、宗教の誕生、科学の進歩、他国との争い、政治的な混乱といった時代の変化が浮かび上がる。各章の主人公も村の少女、学者、旅人などと変わり、ひとりひとりの物語でも十分に読ませるが、全体を通し、彼らの思いや決断が、次の時代に何をもたらしているのかが見えてくる作りも巧みだ。
「文明の興亡を考え始めたら自分でも驚くほど話が広がって、僕はこういう話が好きなんだと気づきました。大きな流れの中で状況が移り変わる様子って、物語的な面白さがある。今の社会と地続きの人間関係や人の感情以外の面白さをストーリーに落とし込めた気がします。ただ、人の感情が動いて物語の山場とぶつかるという構造は、これまで書いてきた小説と変わらないと思います。それにもちろん、物語として楽しめるもの、納得のある展開になるよう設計しました。たとえば〈木〉は時代を貫くシンボルですが、後半におやっと思ってもらえたら」
巨大な〈木〉には、実は意外な秘密が。さらに、各章の最初のページに掲載された奇妙なデータも気になるところで、終盤に明かされる真実に、はっとさせられる。
宗教、権力、科学など時代ごとに人々が何を心の拠りどころにしているかも見えてくる本作。
「人々がすがるもの、というのはテーマとしてありました。意図的にしろ無自覚にしろ、時代ごとの“フィクション”に乗っかっている人たちを自分は書きたかったのかもしれない、と最後のほうで気づきました」
本作を書いたことで、「ひとつ出し切った」感があるという青羽さん。
「今後も、自分にとって身近な世界を書くにしろ、今回のような遠い世界を書くにしろ、読者の感覚を広げてくれるような、強い感情が湧くものを書きたい。それこそが、物語の力かなと思っています」
『幾千年の声を聞く』 流れ星が落ちた場所に生えたという巨大な〈木〉。やがてその木の上に家が建ち、街ができ、国が生まれ…。人々はどこに導かれるのか? 中央公論新社 1870円
あおば・ゆう 2000年生まれ。現在、京都大学大学院在学中。’16年に「星に願いを、そして手を。」で第29回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。著書に『凪に溺れる』『青く滲んだ月の行方』など。
※『anan』2022年11月30日号より。写真・土佐麻理子(青羽さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)