『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』と来て、『そして誰もゆとらなくなった』。朝井リョウさんが、エッセイ集三部作を完結させた。全20編書き下ろしだ。

このエッセイを書いたことで人生第一部完、の感覚になりました。

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「前作までは連載モノも入っていましたが、連載となるとどうしてもその媒体の色を意識した文章になっていたんです。今作は三部作の最後だし、自分が書くエッセイの、ある種、到達点的な一冊にしたい。最後は純粋な書き下ろしで全編いこう、とだいぶ前から決めていました。エゴ丸出しでいこう、と」

友人の結婚式の余興でなぜか人体交換マジックに挑み、催眠術のセミナーで思いもよらぬ人格否定の憂き目に遭って、クリスマスのだいぶ前からホールケーキ三昧の果てに脂質異常症を来し…。ananで昨年3月まで連載していた古市憲寿さんとの対談「紙のラジオ」で披露されたエピソードも幾つか登場するが、喋り言葉ではなく書き言葉で語り直されると、こうまで面白いものか。

「謎の状況ほど、淡々とした表現で描写するとおかしみが増すんですよね。芸人さんでいうと、1作目の頃は勢いや大声、動きとかで笑いを取ろうとする感じで、今回はエピソードトークでじっくり楽しませるイメージ。文章そのものの完成度を高めようと努めました」

ばかばかしい~と楽しく読み進めていると、〈本当に、人生とはいつだって「あのときの自分、死ね」の連続だ〉といったズキッとくる思弁が顔を出す。30代となった人生の厚みは、前2作にはなかったものだ。

「この体で、この自分でこれからも生きていくんだ、みんなそうなんだ…と、人生への諦めがいい意味で滲み出ました。ここで人生の第一部完、という感覚が個人的にあります」

実は、昨今の出版界はYouTuberのエッセイ集が全盛だ。小説家のエッセイ集は、なかなかベストセラーリスト入りしない。だが、小説家としての脳と技芸を十全に発揮した朝井さんの本は、出版界にとって起爆剤になるかもしれない。

「小説を読むのはメンタル的にしんどい時期でも、このエッセイだったら読めるし楽しめる――子供の頃、さくらももこさんのエッセイ集に抱いていた感覚を、自分の本でもなんとか表現したいと心を砕いてきました。シリーズ3冊、ぜひご贔屓にしていただければと思います」

あさい・りょう 1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’13年、『何者』で第148回直木三十五賞を、’14年、『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を、’21年、『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。

朝井リョウ『そして誰もゆとらなくなった』 エッセイ集三部作完結編は、全20編書き下ろし。日常の中に出現する異常事態を前に、誰からも気付かれず世界にも記録されない心の叫びを、こと細かに綴る。文藝春秋 1540円

※『anan』2022年10月5日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・吉田大助

(by anan編集部)

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