その著者が、奥嶋ひろまささん。
「2年ほど前に『入浴ヤンキース』という作品を描いたんです。それは、ケンカしていた不良同士が、お風呂に入って仲直りするという1話読み切りのスタイル。かなり取材もしたので、そのテンプレに組み込めない面白いこぼれ話がたくさん集まってしまって。特に、浴場の奥に居住スペースや三助(銭湯の従業員)部屋がある銭湯を見たときに、昭和の銭湯の風情にハマって。いずれここを舞台に、裏側までしっかり描いてみたいと刺激されたんですね。銭湯自体もひとつのキャラクターになってくれたらいいなと思っています」
そこに、奥嶋さんにとって前々から興味があった吸血鬼という存在と、さらに蘭丸は「本能寺の変」など歴史上の重要事件に立ち会っているというアイデアをプラス。それらが型破りな笑いを誘う。
実は、蘭丸には邪(よこしま)な目的が。こいの湯4代目の15歳・立野李仁(たつの・りひと)の童貞を守り通し、18になったら文字通りの「純血」をいただこうと目論んでいるのだ。ところが、李仁が高校生活開始早々、同じ学校の女の子に恋してしまい、童貞死守に暗雲がかかる。蘭丸は野望を果たせるのか。
「李仁のモデルは息子です。彼の目線がとても生きている気がします。蘭丸が童貞に萌えるのは、僕の本音で。僕自身も高校生のころは『早く卒業しなきゃ』と焦っていましたけれど、息子の成長を見るにつけ、実際はその穢れのなさが尊いし、もう少し大事にしてもいいのかなと思うようになったんですよね(笑)」
銭湯が舞台ゆえ、男性の肉体美のシーンが頻出する。
「人間と吸血鬼、少年と青年というような肉体の違いを肌の質感や筋肉の感じなどで表現したいなと思っています。立野一家の食卓のシーンでは、2代目の長次郎や3代目の春彦などキャラそれぞれの個性が立ってみんなに目が行くようにしたいですし。また、僕にとっては女性を描くほうが難しくて、李仁の同級生・葵の可愛らしさをどう見せるかは試行錯誤です」
1巻の終わりで、蘭丸、李仁、葵が相まみえる大事件が勃発。この先が楽しみだ。
奥嶋ひろまさ『ババンババンバンバンパイア』1 〈こいの湯〉は、東京都練馬区石神井台にある「たつの湯」がモデル。宮造り風の建物やペンキ絵など、建築当時の佇まいが残る。2巻は7月刊行予定。秋田書店 693円 ©奥嶋ひろまさ(秋田書店)2022
おくじま・ひろまさ 1982年、兵庫県生まれ。2007年に『SHOUT!』でデビュー。近著にタイの人気ドラマ『2gether』のコミカライズなどがある。
※『anan』2022年6月22日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)