「当初、編集者さんと話していたのは、デビュー短編集『オーブランの少女』が全部女の子の話だったので、今回は全部、男の人が主人公の短編にしよう、ということでした」
幻想的なもの、SF的なものなど切り口も読み心地もさまざま。巻頭の「伊藤が消えた」は同居していた青年3人のうち1人が失踪、ゾッとする結末が待つ話だ。
「イヤミスでは女性が描かれることが多いのが気になっていて。それで男性たちのイヤミスを書きました」
次の「潮風吹いて、ゴンドラ揺れる」も不気味な短編。少年が、寂れた遊園地でいくつも死体を見つける。
「イギリスのポーツマスに行った時、海沿いに寂れた遊園地があって。遊具がきいきい鳴って怖かったんです。これも女性の扱いに対するカウンターという気持ちと、無謬な人間はいないという気持ちで書きました」
「朔日晦日(ついたちつごもり)」は書き下ろしの掌編。神無月、とある兄弟に起きた不思議な出来事を描く。「見張り塔」は戦時下の話。人里離れた塔で警備にあたる実直な少年兵士が語り手だ。
「連帯主義やそれを成立させる忠誠心に対し警鐘を鳴らしたかった。ここに書いたことは戦時に限らず、いろんなところで起きていると思う」
次はがらっと変わって「ストーカーVS盗撮魔」。ネット上のアカウントの本人を特定して観察することが趣味の男が奇妙な状況に陥っていく。
「作中にも出てくる映画『フレディVSジェイソン』が好きで、私も『○○VS○○』という話を書きたくて(笑)。でも、ストーカーと盗撮魔が一人の女性をめぐって対決する話だと気持ち悪すぎるしコミカルな素材にするものでもない。それで、また別の設定にしました」
「饑奇譚(ききたん)」の舞台はアジアのどこかのスラムのような街。年1回の太陽光が“大放出”される日、人々は空腹を満たしておかないと体が消えてしまうという。
「街については九龍城や映画『スワロウテイル』のイェン・タウン、アニメ『カクレンボ』のイメージでした。神話などでも食べる・食べないで運命が分かれる話が多いので、それらとリンクさせた感じですね」
最後の「新しい音楽、海賊ラジオ」は爽やかだ。近未来的な海辺の街で、少年が海賊ラジオを探す話だ。
「以前、大島に魚釣りに行って、楽しかったんですよ(笑)。海賊放送というモチーフも、いつか使いたいなと思っていました」
終末的世界の作品が多いが、ご自身は“滅び”は怖いという。
「あえて自分にとって怖いものを書くところがありますね。傷口を自分でえぐるタイプです(笑)」
本書のタイトルについては、
「願ったり祈ったりしても助けてもらえない、カミサマに見つけてもらえない人たちの話が多いなと思って。神様だけでなく、“上位にいる人”という意味合いもあるので、カタカナ表記にしました」
実にバリエーション豊かな7編。短編を読む快感を、あなたもぜひ。
『カミサマはそういない』 失踪した青年の真実、遊園地に現れた殺人ピエロ、見張り塔で過酷な任務につく兵士、未知の音楽を探す海辺の少年…。幻惑される7編を収録。集英社 1540円
ふかみどり・のわき 2010年「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選、同作を表題作とした短編集でデビュー。著書に『戦場のコックたち』『ベルリンは晴れているか』など。©干川修
※『anan』2021年10月6日号より。インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)