「大竹まことさんのラジオに呼んでいただいた時、私の出身地の釧路の話になって。大竹さんは20歳の頃、年末に釧路のキャバレーに営業に行ったそうです。その時一緒に海を見に行ったメンバーが、“俺と師匠とブルーボーイとストリッパー”って。聞いた瞬間、これは小説のタイトルだと思い、その場で“書かせてください”とお願いしました」
確かに小説化するなら、書き手は釧路出身で、『裸の華』などでストリッパーを、『緋の河』で男に生まれ女として生きる主人公を書いた桜木さんしかいないだろう。
「どういう主人公にするかはかなり悩みました。釧路出身の、親とあまり縁のない子という設定が浮かんだ時、これで書けると思いました」
20歳の章介は親と疎遠で、アルバイト先のキャバレーの寮で暮らしている。寮といってもオンボロで、住んでいるのは章介だけ。店のスタッフ以外、ほとんど人と交流のない生活を送っている。ある年末、ショーに出演するため店にやってきたのは、自分を「師匠」と呼ばせるマジシャン、体格のいい女装シャンソン歌手、年齢不詳のストリッパー。彼らはホテルでなく寮に滞在すると言いだし、奇妙な同居生活が始まる。
「4人の空間を書くのははじめて。いつ誰がどんな台詞を言いだすか分からなくて楽しかった」
と言うように、彼らのテンポのよいやりとりが非常に愉快。しかも演者の3人は場数を踏んだプロ中のプロ。その意外な演出たっぷりのステージも、作中で楽しめる。
「もともとキャバレーは大人の夜の社交場。演者だけでなく、接客のプロ、舞台づくりのプロたちがいる。誇りを持って人を楽しませる人たちがいる場所だから好きです」
人気若手女優がゲストに来た際は、その素人歌唱っぷりに章介が「気の毒」と感じることも。そこで師匠が舞台に立つ人間の「華」と「欲」について語る言葉が印象的だ。
「私には珍しく長台詞です。ずっと、実力があるのに大舞台に上がれない人と、実力がなくても上がれる人の違いはなんだろうと思っていたんです。そのひとつの答えが出ました」
次第に4人は、家族のように互いと馴染んでいく――。
「以前『家族じまい』でリアルな家族を描きましたが、今回疑似家族を書いたことで、パズルのピースが揃った気がします。両方がないと私の考える“家族”は伝えられない。人には生まれた場所とは別に、自分を生む場所があると思う。それはきっと居心地のいい人たちの中にある。自分で“親”を見つけることができた子は、強く生きていけるはず」
桜木さんにとって“親”との出会いはあったのかと聞くと、
「若い頃は夫だったんですけれど、近年は編集者でしょうかねぇ。確実に育ててもらってる感じがします」
とのこと。あなたの“自分を生んだ場所”はどこですか?
さくらぎ・しの 北海道釧路市生まれ。2002年「雪虫」でオール讀物新人賞受賞。’13年に『ラブレス』で島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で直木賞、昨年『家族じまい』で中央公論文芸賞受賞。写真・原田直樹
『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』 博奕打ちの父と働きづめの母から離れ、キャバレーで働く章介。年末、営業でやってきた3人と一緒に暮らすことに…。2月26日発売。KADOKAWA 1600円
※『anan』2021年3月3日号より。インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)